反俗日記の参考資料。半導体業態の基本がリアルに解る資料である。
- 日米半導体摩擦とは何だったのか.pdf
- ****************************************************************
「日の丸半導体の復活」――錦の御旗を掲げた経済産業省によって、約1兆円もの税金が新会社「ラピダス」に注がれている。しかし北海道千歳市に工場を建設中の同社は、大政奉還後に新政府軍に抵抗した旧幕府軍になぞらえて、「半導体の五稜郭」とも呼ばれる。
「最先端である2ナノのロジック半導体の量産」を目標に掲げるラピダスだが、旧幕府軍と同じく、その夢が実現できるとはとても考えられない。前編記事『99%が税金の半導体会社「ラピダス」はもはや国有企業…そのウラにある経産省の「思惑」』に続き、その理由を解説していこう。
合計145歳の経営者コンビ
取材を拒まれたので、一方的にラピダスへの疑問を誌上でぶつけてみたい。「2ナノ半導体の量産」については多くの専門家が、3つの点から「不安」を指摘している。まず経営者だ。
ラピダスの会長には発足のきっかけを作った東氏が就任した。東氏は現在74歳。1996年から2016年まで東京エレクトロンの社長、会長を歴任した大物経営者だが、国際基督教大学出身の営業マンで、技術者ではない。2019年には相談役からも退いた。現役の経営者ではない。
「技術がわかる経営者」として東氏が誘ったのが小池淳義氏。東氏の3つ年下の1952年生まれで、早稲田大学大学院理工学研究科を修了後、日立製作所に入社し、半導体部門の技術開発に従事した。
最先端について行けるか?
2002年に日立と台湾の大手ファウンドリ(半導体の生産専門会社)UMCとの合弁会社、トレセンティテクノロジーズの社長に就任したが、日本にファウンドリを定着させるには至らなかった。
2005年にロジック半導体の国策会社・ルネサステクノロジの技師長、
2006年にはサンディスク(現ウエスタンデジタル)日本法人社長に就任している。
社会人野球 vs 大谷翔平
2番目の不安は現場の実力。ラピダスが挑む「2ナノメートル半導体」は、現在、量産技術で世界のトップを走るTSMC、サムスンですら及ばぬ領域である。ラピダスはそのレベルに「2025年に試作、2027年から量産」という急ピッチで到達しようというのだ。
東京エレクトロン出身で証券アナリストを経て、現在は半導体関連のコンサルティング会社「グロスバーグ」の代表を務める大山聡氏はこう指摘する。
「現在の最先端ロジック半導体ではFinFET(フィンフェット)という構造が使われていますが、2ナノからはGAA(ゲート・オール・アラウンド)という全く新しい構造に移行します。GAAに移行するための技術的なロードマップを持っているのはTSMC、サムスン、インテルの3社だけとされています」
IBMは2015年に半導体の生産部門をグローバル・ファウンドリーズ(GF)という米国のファウンドリに売却しており、GAAへのロードマップは持っていないはずだ。
一方、2000年代に先端ロジック半導体の量産から手を引いてしまった日本には、GAAはおろかFinFETすら、分かる技術者がほとんどいない。端的に言えば、目標とする2ナノの半導体は作れないのではないか、ということだ。
さらに数兆円の税金が
ラピダスはGAAを学ぶため、100人の技術者をIBMの最先端半導体研究開発拠点「アルバニー・ナノテク・コンプレックス」に「留学」させている。だが100人の平均年齢は50歳を超えているという。
彼らが現役バリバリだった頃は「プレーナー型」と呼ばれるFinFETのもう一世代前の構造が主流だった。そんな老兵たちが、まだ誰も実用化したことのないGAAに挑む。しかも先生役は10年近く前に半導体の量産から手を引いたIBM。ラピダスが「五稜郭」と呼ばれる所以である。
業界関係者によると、老兵たちのキャリアは「(かつて東芝のメモリ半導体部門だった)キオクシアやルネサスエレクトロニクスを早期退職した50代。そこに新卒が加わる」という。基本は日本人技術者だ。
ラピダスの求人情報を見ると技術系の年俸は500万~1300万円。新卒初任給は月給20万~25万円。前出の関係者は言う。
「給与は良くも悪くも日本の業界標準。ただTSMCやサムスンは、本気で獲りたい人材には1億円超の年俸を提示する。10年総額7億ドル(1015億円)で大谷翔平を獲得したドジャースと同じです。みんな仲良く年俸数百万円の社会人野球方式でどこまでメジャーリーグと戦えるか」
しかも経営陣は「最終的には試作品の生産ラインだけで2兆円、量産ラインで3兆円。計5兆円の投資が必要」と語っている。何の実績もないラピダスが自力で資金調達できる見込みは限りなくゼロに近く、これからも国にたかる気満々だ。
量産できても顧客がいない
3つ目の不安は、仮に2ナノメートル半導体の量産に成功したとして、それを使う顧客がいるかどうかである。前出の大山氏はこう指摘する。
「自らは設計せず、生産に特化するファウンドリには、ティーチャー・カスタマー(教師役の顧客)が不可欠です。TSMCにとってはアップル、サムスンのファウンドリは自社のスマホ部門がそれに当たります。
最先端の製品を手がけるティーチャー・カスタマーは、何年先にどんな半導体が必要になるかをファウンドリに教え、ファウンドリが量産した半導体を大量に買い付けます。闇雲に2ナノを作っても、買い手が現れなければビジネスになりません」
経営者は「退役兵」とも言える70代で、現場も経験不足。量産はおぼつかないうえ、仮に成功しても買い手が見当たらない。そんなプロジェクトに1兆円もの血税を投じるのは、「経済安全保障」の名の下に、半導体産業が政官利権になりつつあるからだ。
「週刊現代」2024年6月8・15日合併号より
さらに関連記事『99%が税金の半導体会社「ラピダス」はもはや国有企業…そのウラにある経産省の「思惑」』では、ラピダスの工場建設でバブルに沸く千歳市の様子をレポートしている。
******************************************************************************
「研究委託」という枠組みで行われる支援
まだ事業が立ち上がっていない同社に投資余力は皆無。同社への支援は、経産省が所管する独立行政法人であるNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)から、ラピダスへの「研究委託」という枠組みで行われている。