反俗日記

多方面のジャンルについて探求する。

続編。<増税は誰のためか>神野直彦 地方財政審議会会長インタビュー。

                このままでは貧しいヒトほど負担が重くなる
神保  われわれが税金とは別に社会保険料をはらっていますよね。
税と社会保険料をあわせた国民負担率を見てみましょう。ざっくりというと給料のうち何%を税金と社会保険料に取られているか、という数字です。
  1、スウェーデン 48%
  2、イギリス    38%
  3、フランス    37%
  4、アメリカ    26%
  5、日本      21%
日本の租税負担率は、なんとアメリカより、も低く、先進国では一番最低なわけです。
*一方、日本の国民負担率もヨーロッパ諸国と比べると低いですね。
>ただし、社会保険料(年金、健康保険、失業保険)だけを見ると、日本の負担はそう軽くないです。割合が高いのは年金と健康保険です。
>>つまり日本は相対的に、税負担が軽く、社会保険料は普通ということです。
 
神保  アメリカの国民負担率のなかで、社会保険料の割合が低いですね。
 
神野  イギリスも総ですが、アングロサクソン社会保険料の比重、つまりみんなで助け合って生きていこうという部分が少ないんです。
 奇妙なことに「政府は大き過ぎるから小さく政府にしろ」といっているのは、租税負担率の低い日本やアメリカなんですね。逆に租税負担率の高いスウェーデンやドイツなどでは『政府が大き過ぎる』などという議論は余り起きません
 
神保  日本でも小さな政府にしようという話がよく出てきますが、実際はすでに世界でも最も小さいサイズなのに、ソレをモットちいさくしよう、という話をしているわけですね。
 
神野  (消費税は)確かにヨーロッパ諸国よりも低いです。だから消費税を上げてヨーロッパ諸国波のウエイトにするべきだという議論があります。
しかし問題は消費税課税よりも、所得税のウエイトの低さなのです。日本が理想とする自由主義アメリカでさえ、所得税が日本の倍以上のウエイトを占めています。
 
神保 なるほどこういう状況の中で、日本が消費税だけを増税の焦点にするのはかなりバランスを欠いた議論ですね。
 
神野  そうです。国際比較から見ても、現在の租税負担では所得税と消費税が基幹税になる税制ですが、日本は二つとも著しく低くなっています。基幹税と呼べるほどではない、というのが現実です。
 
神保  所得税法人税を引き上げようという話が出ないで、消費税に偏った増税論になってしまうのはなぜでしょうか。
 
神野  どういう国にするのか、というビジョンがないままに、増税論を考えているからだと思います
>本来税制と国のありようは、リンクしているべきものです
スウェーデンの様に「税金はみんなで負担しあって、その分みんなで分かち合って、社会保障していこう」というビジョンのある国には、全ての階層で負担率が高い構造になるわけです。
 ソレに対してアメリカは、付加価値税がなくて累進的な所得税のウエイトが高いので、お金持ちほど多く負担している構造になります。アメリカは『豊かなものも貧しいものも自己責任で生きて行こう』という国です。
政府は、極端に言えば、秩序維持だけをやってくれればいい、かつ秩序維持のコストはお金持ちに負担してもらおう、という考え方です。
 
 では日本はどういう方向に進もうとしているのでしょうか?
>貧しい人も豊かな人も同じ低負担、或いはお金持ちほど負担が軽い構造です。そもそも所得税のウエイトが低いのに、消費税率をアップして、さらに逆進的にしてしまおうというわけです。。
>しかも、アメリカ式の自己責任型社会へ向かおうとしているのは歳出だけで歳入はヨーロッパのような消費税2桁を目指そうとしている。
アメリカのように公共サービスや社会保障を縮小して、一方で負担はヨーロッパ型を目指している。
一体、どういう社会ビジョンを持って税制を変えようとしているのか、わからないのです。
 
    
        何の根拠のなく税制に論議をしている
神野 アメリカなどは、税制を考える場合、A案、B案といくつか案を出して、其々の所得階層別の負担を試算します。A案だとこの所得階層の人がこういう負担になります、というデータを各案について示して、ソレを元に国民が喧々諤々と議論するのです。
 
神保 自分がいくら負担して、何を受け取れるか、わかるわけですね。
 
神野 スタイモン教授が日本に来たときに、「イロイロな税制法案があるけれど、どの案がどういう負担構造になるというデータが日本では全くでてこない。なのに税率が高いだの低いだの、この案が良いの悪いだの議論している』とあきれていました。「何を根拠に議論しているのか全くわからない」と。
 
  なぜ我々は、所得階層別の負担構造を俯瞰できるデータを見ることができないんでしょうか。
 
神野  租税負担率の推計は『家計調査』を基に作るんですね。つまり、税金を取る政府の側でなくて、払っている家計の側から、この所得はコレだけ払っている、と追いかけるしか方法がないのです。
 
神保  しかしそういうデータを政府は持っているんですよね?
 
神野  なかなか難しいのです。
>徴税する側も、所得いくらの人が、税金をどれだけ払ったかを、把握できない納税者番号制が導入されていないので、其々の所得も完全につかめないわけです。
>納税者番号に対して、日本では非常に強いアレルギーがあります。
ヨーロッパでは元々住民番号のようなものを協会が管理していたので、ソレを徴税機関に移管することで番号制が整理されました。
それに比べて、日本では、国民が税についてオープンにするという文化がないですね。
 
神保  住基ネットとは違い、納税者番号の場合は、政府に所得を把握されることを喜ばない人が多いかもしれません。
 
神野  現金の流れをキチンと捉えなければ、、税制が上手く機能しないのですが、捉えられると困る人が沢山いる。だから納税者番号制が導入できないのでしょう。
 
神保  納税者番号がなくて、政府が国民や企業の現金の流れをつかめていないのは、先進国の中で異例なことなのでしょうか?
 
神野  ソレはありますね。
例えば韓国は財政が黒字基調なのですが、日本より所得税が低いにも拘らず、税収を確保できている。
その理由のひとつは、「カード減税」といってクレジットカードで買い物をすると減税されてお買い得になりますよ、という仕組みがあるのです。するとみんながクレジットカードを使いますから、焦点の打ち上げが完全に細くされ、所得も細くされてて、徴税漏れが少ないわけです。
 
神保  なるほどカード番号が実際の納税者番号のようになっているんですね。
 
宮台 日本は所得階層別の負担構造が把握できない以上、税制を改革するにしてもどの案をどう評価して言いのかわらないですね。
 
神野  ただ、推計はいくつか出ています。
ある所得階層までは累進的に負担率が上がっていくのでうすが、高額所得者になると急速に落ちる。
なぜなら、お金持ちは勤労所得よりもキャピタルゲインつまり株式の売買益や利子、不動産が多いからです。
キャピタリゲインは今でも税率が10%しかありません。元々20%だったのを、投資を活性化させるためといって、2003年から優遇是正で10%に下げているのです。
 一方、勤労所得の所得税は20%程度ある。つまり働くよりも、投資で稼いだほうが負担率は半分で住め訳です。
 
神保  その上、サラリーマンの所得税源泉徴収だから、徴税率がはほぼ100%です。
 
神野  源泉徴収しているのは企業なので、ソレを企業側がキチンとおさめていれば、という話ですが。
消費税と同じで、お客さんから消費税を取った店や企業が、きちんと納めなければ、国税庁にお金は集まりません