反俗日記

多方面のジャンルについて探求する。

認知症の介護者は中吊りになっているような感覚である。論文紹介。

                在宅の認知症患者を介護する家族の予期悲嘆 廣瀬 春次

 

本研究は,痴呆患者を在宅介護している家族の<非死喪失>W?,
<介護サポート>それに<予期悲嘆>W?の各尺度間の関係を検討した。
144人の痴呆の家族介護者に健康尺度を含む4種類の質問紙を配布した。
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   用語の定義
1.非死喪失(non-death loss) W。キャラ喪失、日常生活悪化
身内が認知症になることに伴う,身内や介護者自身の大切な特性や状態のネガティブな変化を非死喪失と定義する。

 
2.予期悲嘆(anticipatory grief)W。過去現在将来の立脚点の喪失(時間喪失) 
家族は,死という最終的な喪失ばかりでなく,過去と現在の喪失や将来の夢・希望の喪失を体験している。
 
3.介護サポート(care support) W。プロ介護 
家族介護者に対する介護に関わるソーシャルサポートを介護サポートと呼ぶ。
本研究では,サポートの概念を拡張 し,ネガティブなサポートを含ませている。
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~省略~W。分類的すぎる。
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  現在の医 学技術の進歩は,診断されてから死に至るまでの期間を長く曖昧なものにしている。
この間,家族は,身内の症状の 小康と悪化に直面し,介護をめぐる患者や親族との葛藤に 苦しみ,自身の健康と自由を失うなど,様々な複合的喪失 および喪失に関わる葛藤を経験する。
認知症患者の家族介護者の予期悲嘆(W。過去現在将来の立脚点の喪失(時間喪失)~立つ瀬がない状態~中吊り状態)は,~その内容はあまり 明らかにされていない。
>負担と負担軽減に焦点を当てた研究に比べ
認知症患者の家族介護者の予期悲嘆は, 現在まで見過ごされてきた研究・実践領域である。

*実際 に,認知症が進むと患者はもはや家族の顔や名前もわから なくなり,次第に見知らぬ関係になっていき家族はも はや身内を死んでしまったように感じる。,←W。介護環境が整っていれば介護負担軽減という逆説もあり得る

認知症患者の 家族は,最終的な喪失である死が訪れる前から,既に様々 な喪失を体験してしまっている,又は体験しつつあると考 えられる。
家族介護者は介護の結果, 友人をはじめとする社会との接触が減る傾向にあるが,
>家 族介護者自身それに医療者や福祉従事者も孤立化を防ぐ支 援の必要性を十分に認識していないと述べている。

 

  

     介護役割を取ることで断 念したこと
社会的・娯楽的交流 の喪失,人生の出来事のコントロールの喪失,健康の喪失,職業の喪失
       広範囲にわたる悲嘆次元の 評価
病気にな る前に認知症患者との愛情の結びつきのあった家族介護 者は,少ない悲嘆症状を示すことを見いだした。←W。短期記憶は飛ぶが長期記憶は残る愛情ある過去の記憶は共有できる! 
   ↑
W。青山光二。2003年、90歳で、私小説「吾妹子哀し」で川端康成文学賞を受賞、異能作家の受賞で世間を驚かせた。未読。
安岡章太郎「海辺の光景」の元陸軍将校の父の妻介護

<5つを下位尺度とする悲嘆段階尺度 W。また形而的分類だな。学者さんらしい。
  *予期悲嘆の段階としてTeusink & Mahler16)が 提唱した「否認」, 「過剰関与」, 「怒り」, 「罪悪感」 , 「受容」
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   W。もっと分かり易い介護者の精神状態の段階説明はある
 認知症全国オレンジキャラバン教科書より引用
   9 認知症介護をしている家族の気持ちを理解する
第1ステップ   戸惑い、否定
異常な言動に戸惑い、否定しようとする。他の家族に打ち明けられず悩む。

第2ステップ   混乱、怒り、拒絶
認知症への理解の不十分さからどう対処してよいかわからず混乱し、些細なことにはらをたてたり叱ったりする
精神的、身体的に疲労困憊、拒絶感、絶望感に陥りやすい最もつらい時期。
 家族だけで問題を抱え込ま無段階ではありません。←ここまでは正解。
>医療や福祉の相談窓口を訪ね診察を受け、介護サービスを利用すれば、認知症への理解が徐々に進み、諸症状への対応方法も分かってきます。←W。それで何とかなったらよいのだが、現実は全く違っている。
  

  第3ステップ  割り切り
怒ったりイライラしても何のメリットもないと思い始め、割り切るようになる時期。
症状は同じでも介護者にとっても「問題」としては軽くなる。←W。認知症の特徴は不可逆な進行性
様々な情報や経験によって、次第に認知症介護に精通してきます。医療や福祉、地域社会から適切な援助協力を得られれば在宅でも十分やっていけるという気持ちに変化し始めるのもこの時期です。←W。制度側に地域社会の協力(視野に入れると仕事が面倒になるのが実情)がリアルに位置づけられていない。啓蒙や家族介護におんぶ抱っこ状態。
  >ここで再び混乱してしまうと、
>第2ステップに逆戻りしかねません。落ち着いた対応が必要です。
W。オレンジキャラバンの講座担当講師(若手、自宅でデイサービス運営)は自分の認知症の母親介護はこの段階だと漏らしていたのが強く印象に残っている。
だったら、原理原則の確認もさることながら、認知症介護の現実の即した講義が必要だろう。もっと介護現場に即した基本理念と応用編の教科書が作成されてよいはずだ。
  

  第4ステップ 
認知症に対する理解が深まって、認知症の人の心理を介護者自身が考えなくても分かるまでになる。W。理解が深まって→考えなくても分かるまでになる!自分には神がかっているとしか言いようがないが。
認知症である家族のあるがままを受け入れられるようになる時期
W。施設という環境を前提とした介護理念じゃないのか?在宅介護でこんな理念を目標として掲げていたら現実に打ちのめされて挫折感はひどくなるばかりだ。その場の洞察力のない対応は後で反省するしかないが、洞察力は原理論や理念終始の環からは即生まれない。
               以上引用終わり
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>強い悲嘆や後悔,それに怒りを示す介護者が心身の問題や施設入所希望を持つことを見いだした。←W。この辺は葛藤があってあたりじゃないのか?
W。こういう状態の介護者の在り方は一般的ではないのか。であるとするなら理想形を示すよりも現状肯定系の糸口を見出す考え方や対処技術を提示する方が当人たちの救いとなる。
「喪失に対する肯定的・適応的反応を含めた 多次元的な尺度は開発されていない」←W。課題の設定の仕方が間違っているのだから答えも出ない。
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本研究の目的の 一つは,悲嘆を喪失への適応反応としてとらえ,
予期悲嘆 のポジティブな側面とネガティブな側面を含む尺度を構 成することである。
W。結論的に言えばポジティブな側面の抽出に失敗している。しかしそれも無理はない。希少種を取り出してひな型にするわけにもいくまい。
認知症介護はもともとできる人と無理な人があるが、無理だからといってやらない訳に行かない場合が多すぎる。
であればどうすべきかという具体的な教えが表面に出ていない。ただし、理念も様々な制約によって現実をすくいとったものでない。
 
  1)非死喪失:家族介護者の非死喪失に関する話,
        
        在宅の認知症患者を介護する家族の予期悲嘆
  表1 非死喪失の各項目と反応数
W。目立った項目
  能力の喪失                     はい。  いいえ。   
痴呆になった身内があなたとの大切な思い出を忘れてしまった40(27.8%)102(70.8%)

* 病気にな る前に認知症患者との愛情の結びつきのあった家族介護 者は,少ない悲嘆症状を示すことを見いだした。←W。青山光二の小説。未読。安岡章太郎「海辺の光景」の元陸軍将校の父の妻介護。

痴呆になった身内のかつての優れた能力がなくなった    127(88.2) 16(11.1)

痴呆になった身内のかつての魅力的な性格がなくなった   92(63.9) 50(34.7)
  家族のきずなの喪失

  自己の機会の喪失                 はい  いいえ

>あなた自身の自由な時間がなくなった          75(52.1) 66(45.8) W。時間的な制約が多い、と一括できる。

あなた自身,友人との会話や趣味を楽しむことがなくなった 49(34.0) 94(65.3)

あなた自身の夢を実現できる可能性がなくなった      52(36.1) 87(60.4)

あなたは介護のために仕事を辞めなければならなかった   35(24.3) 102(70.8)
 
  同一性の喪失  W。介護環境や主観の入り込む余地のない厳然たる事実。
痴呆になった身内はあなたが誰であるか分からなくなった  42(29.2) 98(68.1)

痴呆になった身内は自分が誰なのか分からなくなった    43(29.9) 99(68.8)    
      Ⅲ.結  果
 1.対象者の属性
  144人(女性119人,男性25人(W。増加))を分析対象とし た。
 >家族介護者の平均年齢は59.80歳(範囲27歳~85歳), W。痴呆(Wはその呼称でOKの立場)という呼称でもわかるように10年ぐらい前の調査で、今では双方の年齢はもっと上。

>被介護者である認知症患者の平均年齢は81.78歳(範囲55 歳~99歳),介護期間の平均は4.1年(範囲1年~40年) であった。家族介護者の39%(56人)が仕事を持っていた。

被介護者と介護者の続柄は,子供が54人,嫁が50人(現在は減っている),配偶 者が35人(妻20,夫15)現在は増加,その他5人であった。
       
   2.非死喪失及び介護サポートの反応傾向と予期悲嘆の因 子構造
W。プラス因子は第2因子の*「成就感」第3因子の*「感謝」だけなのだが、
>第7因子*「諦め」は認知症が不条理性を持つ症状なのだからあまりにも人間的な境地として重要視してよい。不条理と不幸は次元が違うとWは考える
*第1因子 は家族介護者の被介護者への否定的な見方や介護意欲の減 退,更に孤独感を反映しているため
*「嫌気と孤独」と命名 した,

第2因子は今までやってきたことの満足感や将来での達成感を表しているので
*「成就感」
第3因子は周り の人達への感謝の項目を含むので
*「感謝

第4因子は身 内が認知症であることを認知的に受け入れられない状況を 示しているので*「否認」,W.啓蒙の結果、コレは減少している。

第5因子は今までの自分の関わ り方を反省しており
*「後悔」

第6因子は過剰 に認知症患者の介護に関与していることから
*「過剰関与」

第7因子は認知症患者への期待を取り下げようとしている 点で
*「諦め」と命名した
   
   3 予期悲嘆の各因子と非死喪失及び介護サポートの各カテゴリーとの相関
>「成就 感」と「感謝」ともに,喪失体験に新たな肯定的価値を付 与する意味探求のプロセスである。
>即ち,「成就感」は困 難な状況を乗り越える自信や統制感であり,
>「感謝」は自分が支えられていることの気づきや他者への思いやりであ る。
家族としての認知症の身内 への期待の大きい家族成員ほど認知症による喪失は大きな悲しみを伴うかもしれない。W。その意味で男性認知症は厳しい環境にあり進行が早まる
>「過剰関与」が結果的に家族介 護者の「自己の機会の喪失」(W。世界が狭くなる、時間が消費されるので自己機会は減る)をもたらしたと考える方が自 然である)

認知症患者の 家族介護者は,ある喪失へ適応する前に次の喪失が訪れる というように,複合した喪失を体験している。

>従来 ソーシャルサポートは,
ストレス軽減効果をもつことが示 されているが,
本研究ではポジティブな介護サポートの正 の影響に加えネガティブな介護サポートが予期悲嘆に負の 影響を持つことが示された
 
  2.精神的健康に及ぼす非死喪失,予期悲嘆および介護サ ポートの影響

非死喪失 (W。キャラ喪失、日常生活悪化)に関しては,予想どおり,介護者の健康に悪い 影響を持つことが示された。
>「同一性の喪失」を除くいず れも,←W。注目すべき事態。重度化すれば介護環境に恵まれると介護者の精神負担は減る場合もある。
「身体的症状」,「不眠」それに「うつ状態」のいず れも強めている。
以下、W。介護教科書とは違う意外な事実が指摘されてる。この傾向は強化されている
>介護 サポートについてはポジティブサポートの大きな影響は認められず,
むしろ,家族等及び知人等のネガティブサポー トが「身体的症状」と「うつ状態」を強めることが示され た。
>従来の研究ではポジティブなソーシャルサポートは, 介護者の健康障害を軽くする効果のあることが示唆されて いる。
実際,苦しい介護状況でも,話を聞いて慰める人が いれば,かなり精神的に救われると考えられるが,
>本研究 ではこれを支持する証拠は得られなかった。←W.介護現場では家族介護者の「話を聞いて慰める」プロサポート者などほとんどいない。介護の教科書に現場に即した応用編が載っていない。人材難。

>予期悲嘆に関しては,「嫌気と孤 独」等が強いほど,精神的健康が損なわれることが示された。
>従来の研究では,家族介護者の負担や介護ストレスが介護者の健康に強い影響を及ぼすことが示されているが,
>本研究の結果は,非死喪失(介護者自身の大切な特性や状態のネガティブな変化)と
予期悲嘆(過去と現在の喪失や将来の夢・希望の喪失)が,負担と同 様,家族介護者の健康を左右する要因として無視できないことを示唆するものである。←W。介護負担は何とか耐えられる。ストレスも負担に耐えられるのだから労働のほどにたまらない。
  W.介護者のキャラクターは介護のために抑え込まなければならない。介護による時間喪失は過去と現在の立脚感覚を希薄し、将来展望の立つ瀬を奪う!認知症の介護者は中吊りになっているような感覚である。