反俗日記

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MMT(現代貨幣理論):その読解と批判 早川 英男 2019年7月1日 適切な記事をネット上で探したところ、この記事に出会った。学ぶつもりでアップする。

MMT(現代貨幣理論):その読解と批判 

       経済研究所 早川 英男 2019年7月1日

 

 The head of a sardine can be great if you believe it.。

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 予め趣旨を述べておくと、筆者も「インフレにならない限り、財政赤字には問題がない」、「インフレになったら、税金を増やせば良い」といったMMTの主張に賛成することはできない。

後述するように、MMTの最大の弱点は会計論に終始していて、価格(金利)とか均衡といった経済学の基本的な道具立てを欠く点にある~Wそれだけではない。世界市場、政治判断、決断が肝要な財政膨張を提唱しておきながら国家機構が果たす役割をスルー。

しかし、MMTの主張の中には主流派経済学の弱点を突く議論が含まれており、単純に「意味不明」とか「全くの誤り」などと切り捨てるべきではないというものである。なお、本稿の補論では、米国主流派経済学者による最近の財政政策重視論(サマーズ、クルーグマン、ブランシャールらはMMTを批判しつつ、財政政策の重要性を訴える主張を展開している)に対して批判的な見解を述べる。

   

 信用貨幣論に基づく信用創造の理解

筆者の見るところ、MMT①信用貨幣論(credit theory of money)に基づく信用創造の理解、ラーナー流の機能的財政論(functional finance)による財政の理解③表券主義(chartalism)に基づく現金通貨の理解、という3本の柱からなるものと考えられる。以下では、これらを順に説明しながら、必要な批判を加えていくこととしよう。←W。①において目暗ましをかけられ信仰の世界に導かれる人が多い。問題は②.③

 WACWAC。以下は銀行実務と信用創造を解説する教科書は違っていたという事実の指摘であり、そのいみでMMTの導入部は正しい。

   引用

 「最大の特徴は信用創造をどう理解するかに求められる。

普通は、預金を元手に銀行が貸出を行うことから信用創造がスタートすると考えられている。しかし、MMT=信用貨幣論では「銀行が貸出を実行すると、直ちに同額の預金が生まれる」と考える一般の人には不思議に思われるかも知れないが、これは金融界に属する人間には常識だと思う。

実際、貸出を行うということは(貸出に関する契約書等を別にすれば)、「貸出先の預金口座に貸出額に等しい預金を書き込む」ことに他ならないからだ貸出の原資としての預金を事前に必要とはしない

 原資が必要になるのは、貸出先の企業が支出をすると預金が自行から他行に流出するからであり、その場合の不足資金は預金でなく市場(日本ではコール市場、米国ではFF市場など)で調達してもよい。

中野氏の書物によれば、こうした信用貨幣論は近年のイングランド銀行四季報でも紹介されているとのことだが、筆者にしてみれば40年以上前に日銀に入行した時、最初に習ったことの一つである(注3)。

~~~省略~~~

>どうしても本源的な預金=マネタリーベースを供給する中央銀行が主体であり、それを乗数倍増やす銀行は受動的な存在というという描像が生まれやすい。←Wの疑問をきちんと説明しようとしている。

しかし、MMTでは貸出が出発点だから、中央銀行がマネタリーベースを増やしても、資金需要がなければ貸出は増えないので、マネーストックも増えない」ということになる。

 事実、2000年代の量的緩和でも今回の「異次元緩和」でも、金融界からは「日銀当座預金を増やしても、資金需要がないのでブタ積みになるだけだ」という声が聞かれたのは周知の通りである。

そして実際に、量的緩和や「異次元緩和」の結果、マネーストック大きく増えることはなかった。←W。増えていることは事実でこれが格差と不労所得を生む大要因。

信用創造の実態を知る実務家の見方が正しかったということになる。

とは言え、MMTの説明では貸出がどれだけ行われ、貸出金利がどう決まるかは全く分からない。

~~~省略~~

 

中野前掲書(第6章)は銀行が国債を購入し、政府が国債発行で得た資金を使えば国債発行額と同額の預金が創出されるため国債発行に制約はないと言う

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WACWAC, 参考資料

検索結果

ウェブ検索結果

 

showyou.jp

WACWAC。

まいった!会計帳簿の付け方で、経済現象を説明してる。

確か、この方は税理士さんだったっけ。

さすがのMMT論者もここまでは言い切れない。

引用

経済事象債権債務、収益費用と資本の増加と減少として複式簿記表記します
この複式簿記国債発行を示せば、現実の姿が見えてきます。
国債発行は以下の通り、民間貯蓄を増加させます。
民間貯蓄が国債ファイナンスすることは本末転倒です。W。本末転倒していない!。西田氏はある時期の経済状況を表記した帳簿上の数字で、過去、現在、未来の動態的で、複数要因の経済現象の現実を説明しようとしている。(注7)参照。

 西田文の引用。動いていないのは西田氏の帳面の方。
「正にMMTは天動説から地動説への大転換なのです!
政府には、インフラという資産と国債という債務が残ります。
銀行には国債という資産が残ります。
国民には預金という資産と売上(所得)が残ります。」
                  引用終了
(注7)
この点、伊藤隆敏『日本財政「最後の選択」』、日本経済新聞出版社2015年は、日本財政の持続可能性について政府の予算制約式ではなく、「日本国債が日本国内の貯蓄で賄われる」ことを条件として課している。伊藤教授は教科書の説明ではなく、現実の政策論として政府の予算制約式を使うのは不適切と考えたのだろう。

MMTの最大の弱点は会計論に終始していて、価格(金利)とか均衡といった経済学の基本的な道具立てを欠く点にある~Wそれだけではない。世界市場、為替相場。さらに政治判断、決断が肝要な財政膨張を提唱しておきながら国家機構が果たす役割をスルー。」

しかし、銀行システム全体としては国債発行と同額の預金が生まれるとしても、個々の銀行が国債を買う際には当然採算を考えなくてはならないし、長期国債の場合は資金を固定するリスクも考慮する必要がある。

 結局、貸出市場の場合と同様に、銀行がどれだけ国債を購入するかは、市場の条件すなわち現在から将来に掛けての短期市場金利の予想などによって決まることになる

 銀行により多くの国債を買ってもらうためには金利が上がる必要があるから、国債発行額が増えれば国債金利は上がる

国債発行に限界がないのではなく、金利という価格の制約が厳に存在するのである。

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W。参考資料

高橋是清も指摘していた国債のリスク

news.yahoo.co.jp

WACWAC高橋是清1935年6月の閣議(2,26事件殺害の前年)で当時の高橋是清蔵相は、「毎年巨額の国債が発行せられて行く時は、現在すでに相当多額の公債を保有している金融業者等は内心不安を覚え、少しでも公債価格の下落が予想せらるるようなことがあれば、進んで公債保有額を増加せぬことは勿論、すでに保有している公債もこれを売却しようとする気になり、一度このような事態が起きれば加速度的に拡大してたちまち公債政策に破綻を来し、市場に公債の消化を求めることができなくなる」と説明。

翌年36年、2,26事件で殺されるまえである膨張した財政の縮小は命がけであった

この時期にすでにモノ不足と物価高が急伸していた。モノ不足は戦争要因とばかりは言い切れない。高インフレと不況の同時進行というスタグフレーションは財政膨張政策につきものである。

W。参考資料

高橋財政と国債消化力1 - 日本金融学会

http://www.jsmeweb.org/ja/journal/pdf/vol.40/full-paper-40jp-satoh.pdf

引用

「  1 順調な国債消化,なぜ公募ではなく日銀引受なのか
1932年11月から開始される日銀引受国債発行は,31年12月の金輸出再禁止・銀行券兌換停止とともに高橋財政の支柱である.これらによって可能となった財政支出の増大は,軍事部門をてこに総体的な需給ギャップを埋め,恐慌脱出を早期に実現した.

 しかし2・26事件以降の日銀引受国債発行は,戦時財政を支える装置として躊躇なく活用され,戦時下の支配地における,また敗戦直後におけるハイパーインフレの需要的要因をつくりだした.4)」

1936年2月26日,いわゆる2・26事件で非業の死を遂げねばならなかった.なぜだろうか」

1932年から2・26事件の前年35年までに発行された国債は33億8,000万円

うち日銀引受が27億7,000万円(82%),

その9割(24億9,000万円)が日銀の売りオペで売却された.8)

きわめて良好な国債消化力であり,これが高橋財政を支え続けた

当時の安定的な国債消化力の仕組みの要となっていたのは,三井,三菱,住友といった財閥銀行を中核とする国債引受シンジケート銀行団であった.この間の日銀売却の4割近く(9億6,000万円)を占めた(表1).
日銀引受国債発行そのものは,高橋財政以前においても行われており,日銀による国債売却も同様である.9)

それにもかかわらず高橋蔵相の「着想」,「新機軸」(深井英五)10) といわれたのは,この2つを一体化させて実施したからである

 この仕組みは大蔵省(発行),日銀(引受)だけでは,完結しない.

日銀は「買い手を待って売出す」(高橋是清)11) しかできないからである.

@日銀引受国債の安定的消化を維持するには,シンジケート銀行の協力が不可欠であった
シンジケート銀行団は単なる国債引受機構ではなく「銀行界,金融界における参謀本部,軍令部に該当する」12) とみなされていた.

@つまり,シンジケート銀行,日銀,大蔵省の三者連携によって金融秩序が維持されていたのである。

     

     2 財閥銀行が左右した売りオペ市場

  W未読。

    おわりに代えて
高橋財政をフォーマル,インフォーマルに支えた財閥銀行,日銀,大蔵省の三者連携である。

相互に依存する三者関係が成立するには,ある程度の対等なパワーバランスが前提となる.

@それには,明治初頭から突出していた大蔵優位が後退しなければならない

W。参考資料 貯金の1008兆円は金融機関に貯蔵されているわけではなく投資されている。

家計の金融資産残高は1903兆円、うち現預金は1008兆円:MONEYzine:資産運用とお金のこと、もっと身近に

 

      2004年から2018年の家計の金融資産の推移

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      W。企業の内部留保

資料① <手元流動性(ネットキャッシュ)が潤沢な企業ベスト10>
1位 ソニー……1兆4351億円

なぜ「446兆円」も貯め込むのか? ソニーとパナソニックの比較で考える内部留保問題 |ビジネス+IT

   イ)日本企業は人員を増やすことで何とか売上高を拡大してきた。

日本企業は人員を増やすことで何とか売上高を拡大しているものの、1人あたりの賃金を抑制することで業績を上向かせているという図式になる

 企業の業績が良くなっているのに賃金が上がらず、一方で人手不足が深刻という日本経済の状況は、一連の企業の動きと符合している。」

   ロ)売上高を増やすために人員を投入している状況では、人が増えた分しか売上高が拡大しないので効率が悪い。いわゆる労働集約型ビジネス

*「以上好業績であるにもかかわらず企業が内部留保を過剰に溜め込んでいるのは、景気後退時の人件費負担を強く警戒しているからにほかならない。」

W。違う!日本企業の「少子高齢化

 W参考資料②

内部留保多い日本企業はコロナ恐慌に耐えるか | コロナショックの大波紋 |

 経済オンライン | 経済ニュースの新基準

引用

内部留保とは、企業の「内部に蓄えた利益」ではなく、現金や預金のみならず国内外の債券や株式に投資した「自己資本の1つと考えたほうがいい。

日本企業の場合、通常2~3カ月分の売り上げに匹敵する運転資金をキャッシュ(現預金)で持っていれば比較的安全というのが一般的な認識

日本企業の内部留保が急速に増えたのもアベノミクスと大きな関係があるということだ。
内部留保=現預金ではないのだが、日本企業の現預金がここ10年以上、増え続けてきたのは間違いない

法人企業統計によると、企業の現預金が増え始めたのはリーマンショックの2008年前後からだ。

以前の企業は、現在の欧米の企業同様に現預金の積み上げを回避する傾向にあった

それが、2008年度のリーマンショックを機に日本企業の現預金は加速度的に増していく。実際に、2000~2009年度までの企業の現預金の伸びは年率1.2%だが、2009年度から2016年度には年率4.3%と伸びている。
  現預金は150兆円→211兆円に
 WACWAC.下記の日本内外の経済循環構造は重要
@この背景には、日本銀行による異次元緩和の影響が大きい

@日銀が量的緩和で市中の日本国債を大量に買い入れたため、
@その資金が巡り巡って家計や企業の現預金に回っていく
@しかも、企業はその現預金を従業員の賃金や株主への配当に回さずに海外の企業買収(M&A)資金などに回した。
@本業のビジネスでは稼げないから、海外の利益の高い企業に投資して、利益を稼いできた。

*それが、日本企業の現実と言っていい。←W。その中でもソフトバンクは特異な例。<手元資金に対し借り入れが多い会社(10社)>1位 ソフトバンク……-11兆8265億円。巨額借金と国内外の債券や株式に投資した「自己資本」のタイトロープ。

             ↓              ↓債権、株式の自己資本
@さらに、M&Aなどの資金を銀行から借り入れて行うのではなく内部留保の現預金で行ってきた。

その背景には、借り入れのようなリスクを取りたくないというのもある

また、内部留保が多いと銀行に対する信用度が増すために、資金調達の1つの方法になっていると考えられる。←W。企業内部留保と家計の貯蓄が政府の赤字国債大量発行の裏付けとなっているソフトバンクの経営戦略とは好対照。

ソフバは反アベノミクス企業である。

しかもある意味で、MMT的な経営戦略の具現とみなすこともできる。

しかし、俯瞰的に見ると、合成の誤謬である
 無借金経営の企業が多いのも、そうした背景があるからだ。その反面で、株主からは増配を求められ、政府からは「内部留保課税」を課すプレッシャーをかけられる。←W政府の圧力は自己矛盾!企業の停滞的な内部留保のおかげで、超低金利赤字国債が発行できる。

従業員からの賃上げ要求は、労働組合を形骸化することで免れてきた。W。承知の事実

実際に、実質無借金企業の割合は、2008年度には37.3%(財務省財務総合政策研究所調べ、TOPIX500から金融機関を除いた企業)だったのが、2017年度には51.7%(同)に達している←W。昔の経営スタイルと大きく様変わり!驚いた!

>グローバル市場の荒波にもまれるうちに生き残りの最優先課題として各部門の寡占状態の国内市場の固定化、シェア拡大よりも収益率を優先させている。主要企業まで少子高齢化、巣ごもりスタイルの経営戦略。

<手元流動性(ネットキャッシュ)が潤沢な企業ベスト10>
1位 ソニー……1兆4351億円

4位 東芝……9008億円

W。「企業の手元流動性(現金・預金+有価証券)。」

 東芝は分社化完了ということらしい。手元流動性(ネットキャッシュ)4位は持ち株会社東芝

アメリカの18.3%(2017年)に比べれば大きな差だ。

WACWAC。カネの血流が悪く、2020年五輪予定もあり東京はうっ血状態だった。

そういう動脈硬化、うっ血状態を基盤に赤字国債大量発行→市中機関の国債購入=即日銀、買い上げの循環が機能している。

先般の東京都知事選。小池百合子候補、圧勝の政治的背景が以上の文脈から透けて見える。東京一極集中バブル健在なり。「意識が存在を規定するのではなく存在が意識を規定する!」投票率50%をW流に修正すると、選挙に行かないいけない寝方有権者20%とすれば、投票行動の習性のある人々のうち約70%が投票した。30%の人は投票しなかった。小池候補の得票から30%差し引いても2位以下の候補は当選できなかった。
   内部留保はM&Aに
要するに、企業は内部留保の格好で資産を貯めているのだが
@その蓄えた資金を設備投資に回したりせずに、主として国内外の株式や債券に投資していると考えていい。←W。設備投資の選択はあり得ない!
@また、現預金も総額で211兆円もため込んでいる。←W。少子高齢化巣ごもり経営スタイル!
>ただ、言い換えれば内部留保とはいっても比較的自由に使える資金は、現預金の211兆円しかないとも言える
>日本企業の多くは従業員の低すぎる賃金に充てるでもなく、株主への配当も怠ってきた。では何をしてきたかと言えば、海外株式や債券に投資してきた。←W。利益率の低い国内市場に投資しない、のは当たり前の行動。
@200兆円の資金が「投資有価証券」や「設備投資」「不動産」になっているわけだ。


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W。政策情勢の流れから、バブル崩壊以降の財務省赤字国債垂れ流しによる無軌道な有効需要創出政策から反転した長期にわたる財政引き締め傾向の実行で利得を得る支配層ヒエラルキーへの肉体的反発の浸透(素朴な空気感)が米国発、現代貨幣理論の底抜け財政政策の一部への流布、洗脳を可能にした。

The head of a sardine can be great if you believe it.。

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高橋是清、引用に戻る

高橋財政と国債消化力1 - 日本金融学会

http://www.jsmeweb.org/ja/journal/pdf/vol.40/full-paper-40jp-satoh.pdf

高橋は三者連携の先覚者であった.その後の三者連携は,救済融資(日銀特別融通),1917(大正6)年預金金利協定,1923年関東大震災,1926年金融制度調査会,1927年金融恐慌等々への対応を通じて,否応なく深まっていったのである
高橋の財政運営もこうした関係のなかで機能していたが,重要な変化が生じていた.1927年金融恐慌を契機とする五(六)大銀行への預金集中である.1920年の時点で26.9%のシェアは,30年で36.5%となり,三和銀行の成立によって33年には65.3%まで高まった.19) この結果,おのずとこれら諸行が牽引するシンジケート銀行への依存は,さらに深まることになったといえよう.
したがって,2・26事件の反乱将校には高橋蔵相と三者連携は一体のものに映っていたと思われる.「資本家的財閥の代表者」とはいえないが,単なる時の蔵相ではなく,背後には1910年代以来の金融財政運営のあり方があり,高橋はその要を成していた.その意味で,反乱将校は正確に要を撃ったのである.」

                        引用終了

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タイトル本文に戻る

  機能的財政論による財政の理解

 

 

なおMMT論者は、自国通貨建てで国債を発行している限り、自国の現金を渡せば国債償還が可能だから債務不履行はあり得ないことをしきりに強調するが、これは当たり前の話であって誰も反対しない。

 

 さらに、財政がマクロ経済に与える影響として雇用と物価だけを考えるのは、明らかに視野が狭すぎるだろう。

①>先に述べたように、国債発行額が大きくなれば金利上昇を招くから、民間需要のcrowding-outにつながる

②>しかも、国債金利(r)と名目成長率(g)の関係がr>gとなった場合、十分なプライマリーバランスの黒字が無ければ、債務が雪ダルマ式に膨らみ、国債残高/名目GDP比率が発散してしまう。

 

 今の日本では、日銀が国債の大量買入れを続け、10年債の金利もマイナスのため、低成長の下でもr<gとなっているが、

将来2%の物価目標が達成されて日銀が国債買入れを止めればr>gとなる可能性は十分にある(しかも、日本の政府債務残高/名目GDP比率は2倍を超え、プライマリーバランスは赤字だ)。「日本がMMTの成功例」だとするMMT論者は、極めて非常識と言わざるを得ない(注9)

 ラーナーは1948年の論文(注10)で、「国債が内国債である限り償還時に起こるの一部の国民が課税され、一部の国民が償還金を受け取る、

つまり国民の間の資金の移転に過ぎないから国全体で考えれば国債の負担は発生しない」と主張した。

 これに対しては、モディリアニが後年「複数世代を考えた場合、国債発行時点の国民が過大に消費すれば、将来世代が利用できる資産が減ってしまうため、将来世代は国債の負担を負う」と批判して(注11)、

>現在の経済学ではこちらが主流派の見解となっている。

しかし、筆者自身はラーナーにやや同情的である。確かに完全雇用の場合はモディリアニの言う通りだが、例えばリーマン・ショックのような時は、財政出動で経済を支えないと、設備投資や住宅投資も大きく落ち込んで、将来世代に残る実物資産もかえって減ってしまう。このため、必ずしも財政赤字=将来世代の負担とは限らないというのが筆者の見方だ。

とは言え、これはあくまで経済を大きなショックが襲った場合の話であり、まして現在の日本のように財政赤字の主因が社会保障支出の増大である場合は、モディリアニの見方の方が妥当すると考えるべきだろう

 

 表券主義に基づく現金通貨の理解

「現金通貨は国家が決める」と言うだけでは、「自国通貨建てで国債を発行している限り、債務不履行には陥らない」という主張以上に無意味な命題になってしまう。

だから、MMTの主張を意味あるものとして理解しようとすれば

>「現金通貨は納税手段となることで、価値が与えられる」と考えるほかはないと思う。

この点、「税金は銀行預金を使って払っている」と思う人がいるかも知れないので、念のため言っておくと、

>政府が税として受け取るのは現金通貨だけである

銀行の口座から納税する場合も、

中央銀行にあるその銀行の当座預金(日本では日銀当座預金)から政府当座預金に振替が行われることで、納税が完了するからである。

日銀当座預金は現金である。

しかし、現金が納税に使えるからと言って、それで価値が保証されるというのは、単純に誤りである。

納税に使えたとしても、政府財政に対する信用がなければ、現金通貨の価値は保証されないのである(注12)

 

なお、MMT論者は財政赤字にとって制約はインフレだけだが、「インフレになったら増税をすれば良い」と簡単に答える。

>>現金が納税に使えるからと言って簡単に増税できる訳ではない。日本政府が消費増税にどれだけ苦労しているかを考えれば明らかだと思うが、政府に増税の必要を国民に納得させる力、または国民に増税強要する力がない限り増税でインフレを止められる保証はない←W。MMT政策は社会経済の統制強化とセットになる傾向は否定できない。

>>だとすれば、「財政赤字は心配しなくても良い」というMMT論者の主張を簡単に信じることはできないというのが、筆者自身を含めたMMT批判論者の一致した意見である。

 以上、本稿でMMTについて述べてきたことをまとめてみると、次のようになろう。

まず信用貨幣論に基づく信用創造の理解は、中央銀行の力を強く見る通説よりも実態に即したものである可能性が高く、金融政策を考える上でも有用であり得る

>また、主流派経済学が要求する政府の予算制約は、やや過度に健全財政に偏していると思われる

>>金利への影響や世代間の所得分配といった問題まできちんと考慮に入れるなら

財政が実物経済に与える効果に注目すべきだという機能的財政論は、基本的に正しいだろう。

しかし、財政赤字は心配しなくて良い」というMMTの主張を受け入れることもできない。

国債発行が増えれば金利は上がるし、その結果crowding-outも発生する。将来世代が国債の負担を負うことになる可能性も高い。

 また、インフレになっても政治的に財政赤字を圧縮することが難しいのであればハイパーインフレと言わないまでも高率のインフレを許すことになってしまう。W高橋是清2,26事件殺害は極端な例にしても、通常社会でもインフレ下の財政圧縮は、負担を背負う層が生れる。スタグフレーション期のインフレは国内の過剰生産、過剰資本の土壌に原油価格高騰を契機にする国際収支悪化という外からやってきた。

ということである。MMTの意義と限界のうち、やや限界の方が勝る感はあるが、公平に評価するならば、こういう結論になるのではないかと筆者は考える。

補論:米国主流派経済学者による財政政策重視論について

MMTを巡る論争の陰に隠れてやや目立たない印象はあるが、米国では最近になってサマーズ、クルーグマン、ブランシャールといった大物の主流派経済学者たちが(MMTは批判しながら)財政政策の重要性を訴えるようになっている

 基本的には、数年前からのサマーズらによる「長期停滞論」(注14)を背景としつつ、自然利子率が低下して金融政策が有効性を失っている状況では、マクロ安定化政策として財政政策がより重要になっているとするものだ

 

     ↓

 米国経済は相対的に好調ではあるが、既に減速過程にある中で、今後景気後退局面を迎えても、従来に比べて金利引き下げ余地が乏しいという困難にどう対応するか、という政策的問題意識もあるのだろう。←W。世界のG国共通の問題だが、資本主義とはそういう法則の下に歴史的に変転してきた。

とくに、元MIT教授でIMFのチーフエコノミストをも務めたブランシャール氏が今年1月の全米経済学会の会長講演(注15)において、金利環境下では財政政策を積極的に活用すべきだと訴えたことは多くの人々の注目を集めた。

こうした米国主流派経済学者による財政重視論に対する筆者の率直な印象は、驚きと落胆であった。と言うのも、金融政策がゼロ金利制約に直面している(近づいている)時に、マクロ経済政策として財政政策が重要になるというのは、当たり前過ぎるからである(「流動性の罠」について学んだ後なら、学部1年生でもそう答えるだろう)。

 にもかかわらず20年前、彼らは日本に対して「ゼロ金利でも、量的緩和インフレ目標でデフレを克服できる」と主張していたのだ(注16)。その後、彼らが意見を180度変えた背景に大きな理論的イノベーションがあった様子はない。

要は、20年前の米国はグリーンスパンFRB議長が「マエストロ」と呼ばれた時代で、金融政策の効果への過信(景気循環は終わったというgreat moderation論さえ拡がっていた)があった一方、現在はリーマン・ショック後の非伝統的金融緩和の効果が限定的だったという事実に学んだということだろう。現に、ブランシャール講演も大部分が「今後暫くは金利水準(r)が名目成長率(g)を下回る」という氏の予想、つまり環境変化の説明に当てられている。

日本人エコノミストとしては、「彼らはいつも自国の環境だけを考えていて、日本の実情など眼中にない割に、政策提言だけは安易に打ち出してくる」という印象を持たざるを得ないだろう。

もちろん、日本が直面する課題を適切に理論化し、海外に発信することのできない日本の経済学者や、米国の著名経済学者が政策提言を出すと、あり難そうに報道合戦を繰り広げる日本のメディアの方がもっと情けないのだが・・・。

 この点は、20年前にリチャード・クー氏が展開していた議論を視野に収めることで、より明確にすることができる(注17)。

当時、クー氏は「バブル崩壊後のバランスシート不況では資金需要が無くなってしまうので、金融緩和をしても効果はない財政出動が必要だ」と主張していた。

この「資金需要が無い」という部分を「自然利子率が低い」と置き換えれば、現在の米国主流派の議論と同じであり、かつ「自然利子率が低い」のは「低金利でも投資不足」という意味だから、「金利でも資金需要が無い」のと全く同じことである。

 しかも、クー氏はMMT論者のように「財政赤字の制約はインフレだけ」と主張していたのではない。「金利が上がって来れば金融政策が復活するので、財政は引っ込んで良い」と述べていた訳で、金利を軸に財政政策の有効性を判断する点でも、米国主流派と同じである。

つまり、現在の米国主流派は20年前のリチャード・クー氏の立場から一歩も前進していないということだ。

それどころか、彼らが20年前にバブル崩壊後の不況の深刻さというクー氏の警告をしっかり受け止めてさえいれば、住宅バブル崩壊金融危機という展開も防げていた可能性がある。当時の米国経済学界は「バブルが崩壊しても、その後に強力な金融緩和を行えば深刻な悪影響は防げる」というFed viewを受け容れていたが、それがバブル崩壊のコストを過少評価するものだったことは今では明らかだ。もし彼らが日本の状況にしっかり眼を見開いていれば、住宅バブルや金融証券化の過熱に対してもっと強く警告を促すことができたのではないかと思う(注18)。

しかし、クー氏の財政出動論は、1997~98年の金融危機直後の深刻な不況期を除くと、日本の経済学者・エコノミストの多くから支持を得られなかったことも述べておかなくてはならない実際、その後の小泉政権では公共事業の大幅な削減が行われた)。それは、1990年代に何度も行われた景気対策に伴う公共事業(その背後には、米国政府による公共投資拡大圧力もあった)には、いつも空席ばかりの市民ホールや飛行機が着陸できる農道など、あまりに無駄が多かったからだ。

@確かに、そうした財政政策では短期的な景気浮揚効果はあっても潜在成長率はむしろ低下し、今風に言えば自然利子率が低下する。つまり日本経済の長期低迷という元々の問題解決につながらないと考えられたからである。

 現在の米国経済学界は、この日本の経験からも学ぶ必要があるのではないか。

財政政策が長期停滞を克服できるか否かは、結局、潜在成長率を高めるようなwise spendingができるかどうかに掛かっているということだ。

 この点、米国では劣化の著しい公共インフラの修復はwise spendingであり得るし、(MMT派の学生ローン帳消しはともかく)低所得層の高等教育進学を支援することもwise spendingになり得るだろう。

 しかし、政治プロセスを経た後でも本当にwise spendingを実行できるかは極めて疑わしい。

 米国の経済学者には、他国の政策に口出しをする前に、財政支出を効率化するメカニズムの研究に注力してもらいたいものである(注19)

 

 

(注3)
実際、こうした考え方は日銀で考査局長などを務めた横山昭雄氏の著書『真説:経済・金融の仕組み』、日本評論社、2015年で説明されている。
因みに筆者は、日銀支店勤務の時期に、まだ紙ベースだった地方銀行の預金帳簿に、「貸出代わり金」の名目で日銀貸出に等しい金額を書き込んだ経験がある。この瞬間、当該銀行の日銀当座預金は同額増加したのだ。

 

(注4)
野口悠紀雄は、近著『マネーの魔術史』、新潮選書、2019年の中で信用貨幣論に基づく信用創造の理解に触れて、「これまで広く信じられてきた説明が間違いだったとは、驚きだ。この誤りは、金融政策等に関する様々な誤解の原因にもなっている」と述べ、通説的信用創造論を批判している。

 

(注5)
鈴木淑夫『金融政策の効果:銀行行動の理論と計測』、東洋経済新報社1966年。かつて「窓口指導」などを担当していた旧営業局の実務家も、こうした「日銀理論」を理解していて、「市場金利が上がらないと、窓口指導も効かない」と考えていたという。なお、岩田・翁論争に代表されるような経済学界と日銀のすれ違いも、主に信用創造(と日銀券需要の短期的な外生性)に関する理解の違いに起因するものだったと思う

 

(注7)
この点、伊藤隆敏『日本財政「最後の選択」』、日本経済新聞出版社2015年は、日本財政の持続可能性について政府の予算制約式ではなく、「日本国債が日本国内の貯蓄で賄われる」ことを条件として課している。伊藤教授は教科書の説明ではなく、現実の政策論として政府の予算制約式を使うのは不適切と考えたのだろう。同書が必要な消費税率として15%程度と、経済学者・エコノミストの「相場観」とされる20~25%(トニー・ブラウン教授や北尾早霧教授らによる厳密な動学的一般均衡分析によれば、さらに高い税率が必要とされている)より低い数字を挙げているのは、財政の持続可能性に関してより現実的な見方を採っているためである。

 

(注12)
貨幣の一般均衡理論においては、「貨幣は○○の役に立つから価値がある」という説明は貨幣が価値を持つ均衡の存在を証明する上で役に立たないことが知られている。例えば、貨幣的交換は物々交換より効率的でPareto improvingであっても(そのことを説明するモデルは多数ある)、有限期間のモデルであれば、翌期に持ち越せない最終期の貨幣の価値はゼロになるから、その1期前の価値もゼロ・・・となって、貨幣の価値は常にゼロになってしまう。一方、無限期間のモデルを考えると、何の役にも立たなくても「皆が価値があると信じるから価値がある」といった岩井克人教授の『貨幣論』、ちくま学芸文庫、1998年のような貨幣(純粋バブル)も存在し得ることになる。
  • (注13)
    FTPLは、もともと30年近い(Sargent-Wallaceのunpleasant monetarist arithmeticまで遡れば40年近い)歴史を持つ古くからの理論だが、日本で注目を集めたのは、シムズ教授が2016年夏のジャクソンホール・コンファレンスで発表した“Fiscal Policy, Monetary Policy and Central Bank Independence”という論文に対し、アベノミクスの理論的指導者とされる浜田宏一内閣官房参与が「目からウロコが落ちた」として賞賛したためだろう(このため、日本ではFTPLを「シムズ理論」などと呼ぶことが多い)。「財政金融政策の協調でデフレ脱却の策を授けた」などと言われることもあるが、FTPLはもともと主流派以上の健全財政を前提にした理論なのだから、日本での理解のされ方は相当に捩れたものだったということになる。

注16)ただし、クルーグマンは2015年10月のNYタイムズのコラム“Rethinking Japan”で自らの誤りをはっきり認めており、米国主流派経済学者の中では最も潔いと筆者は感じている。後述のクー氏の名前も、クルーグマンの論文の中では頻繁に引用されている

注19)
にもかかわらず、ブランシャールは日本に消費増税延期を提言してきた。オリヴィエ・ブランシャール、田代毅「日本の財政政策の選択肢」、Peterson Institute for International  Economics、2019年5月。
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     WACWAC参考資料

    高橋是清MMT  経済産業省 中野剛志
  ②財政政策
財政赤字の拡大によって金利が誘導目標よりも下がるのを防ぐために、政府と中央銀行国債を売却する。
>つまり、政府の国債売却は、赤字財政支出に必要な借入のためではなく、中央銀行金利誘導目標を達成するのを手助けするために行われる。W?
また、
財政赤字は、それと同額の非政府部門の貯蓄を創造するのであるということは、政府が貯蓄の供給不足に陥るということもあり得ないということを意味する。←W?

 ③租税の機能
MMT は、自国通貨を発行できる政府には、支出能力には予算制約はなく、
>それゆえ租税は財源確保の手段ではないとする。W?
@自国通貨を発行できる政府は、支出のために歳入を必要とはしない。
むしろ、政府は、納税者が通貨で租税を支払う前に、通貨を支出して、
あるいは貸出して、経済に供給しなければならない。
それゆえ、支出が先で、納税は後という順序となる。

@租税は財源確保の手段ではないが、しかし別の重要な役割がある。
@貨幣で支払うことのできる租税を課すことで、貨幣に対する需要が創造される。W?
これについて、レイは「租税が貨幣を動かす」と表現している。
  ④金融政策
MMT は、内生的貨幣供給理論を支持しており、マネーストックやマネタリーベースは内生的であって、それらを中央銀行は制御できないとみなす。W。間違っていない。

他方、金利については、中央銀行が翌日物金利の誘導目標を設定して制御できるので、外生的であると考えている。
 ⑤為替相場制度の選択
MMT によれば、変動相場制を採用する政府は、自国通貨におけるデフォルトリスクはなく、政策余地が最も大きい。ただし、政府支出が大き過ぎるとインフレや通貨安が起こる可能性はあるW.正解
 ⑥雇用政策
MMT は、経済成長を追求する戦略にも、ベーシックインカムの給付にも、否定的である。
前者について言えば、経済成長は富裕層の利益をより増やし、所得格差を拡大することが実証的に明らかになっている。24後者について言えば、ベーシックインカムの給付は、インフレのリスクをはらんでいる。25
こうしたことから、MMT は、完全雇用を達成する上では、失業者を直接対象として雇用を直接創出することができ、かつインフレを抑止する自動安定化装置として機能する就業保証プログラムがより優れていると考えている。

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これに対して、MMT によれば、「政府赤字がそれと同額の非政府部門の貯蓄を創造するのだから、政府が貯蓄の供給不足に直面することはあり得ない」58のであり、赤字政支出の拡大それ自体が金利を上昇させることはない。むしろ、赤字財政支出金利を下げるのであり、国債の売却は、金利を引き上げて目標値へと誘導する手段である。

 

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W。参考資料

ピープルズ・プラン研究所 - MMTは日本を救うか?

 

W。参考資料」

ピープルズ・プラン研究所 - 新規論文 「れいわ新選組」の経済政策について