反俗日記

多方面のジャンルについて探求する。

courrier.jp courrier.jp 全文引用。エマニュエルトッド「我々はどこからきて今どこにいるのか」文藝春秋刊を解りやすく。フランス大統領選の有力候補として世論調査で目下2位。「フランスのトランプ」極右のエリック・ゼムールがフランス随一の知性エマニュエル・トッドと激論。

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W。前回の記事の問題意識を引き継ぎ。なおトッドの「我々はどこから~~」の日本論の部分は後日記事にするが、余りに物悲しく(主要プレイヤーとみなしていない特殊な国)一方でおだて挙げており、真正面から議論していない。不思議特殊な国のままなんだとおもう。

「米国は、雇用の際にきわめて学歴を偏重する一方、低学歴・低所得者層の構成割合が大きい社会.。

エマニュエルトッドの最新邦訳「我々はどこからきて今どこにいるのか」文藝春秋刊行

 を買ってきて読了した。

トッドは米国高等教育による知的支配層の生産(なんだかんだ言っても大学教育達成度米国、日本などがMO1で同じ病巣を抱えている⇒自由貿易グローバリズムとそれに反するトランプ現象保護貿易ナショナリズム、排外主義)を紐づけて、半分納得できて半分グレーゾーンの見解を披露している。

 たしかにトッドの言説は骨折気味のところがある。

「我々はどこから~~」がフランスで刊行されたのは2017年。

邦訳版が出たのが2022年10月。月刊文藝春秋、最新号で、佐藤優ほか1名と来日し対談している。

 ずっと邦訳本文を読み通すうちに大きな疑問を持ったのは、トッドの従来からの推奨であった(国内労働者保護、行き過ぎたグローバリズムによる内外の矛盾拡大を止めるため)保護貿易、広域経済圏反対、自国の伝統と文化保護などを政治目的化するのは言葉の上では通用しても足元の各国内のリアルな供給体制が確保できるのか、また内外に騒乱の種を今以上にばらまかないか(ロシアウクライナ戦争に冷静であれば、中国市場分離にも客観的立場で臨むべきだが往々にして後者に排外している)、ということであった。

 >日本でも円安になれば海外移転した工場が返ってくるなどいう人が多い、が果たしてグローバル需給体制はそんな単純に一端、出て行ったものが返ってくるものだろうか?と。社会構造経済構造上の問題が横たわっている。ある意味、不可逆の構造改革はされた結果の今がある。中途半端、というのは日本の特殊性である。

 アベノミクス登場前、リフレ派が盛んに日銀の慎重金融政策やり玉に挙げていたが、そのころのかれらは日本は需給バランスにおいて供給力過多なので大規模な量的金融緩和で円を市中に回せば需要は必然的に喚起される、と。

この論争の時に反対派は本当に日本の国内にそれだけのリアルな供給力はあるのか、すでに海外出て行って日本国内には存在しないのでは、と。付随してカネを刷っても(実際は国債を刷っても)大きな投資先が国内に見当たらず日銀当座預金ブタ積み論も出ていたように思う。

 MMTの急先鋒、三橋さんの動画をよく聞いていると単純な国内供給過剰論を前提にしているように思う。さらに原理論の展開のときに為替や利子の要素を省いて企業会計の論理を行き成り出してきて一国経済の循環に話に終始する。

 中野剛志の場合は、ウクライナロシア戦争、中国市場分離策動以降のインフレ急進(日本などまだ生易しい方)にたいして戦争や突発事態によるコストプッシュインフレに対して経済学は計算外などと弁明しようとしている

 MMTを批判するものは財政破綻云々を真っ先に出しているわけではない

歴史的に庶民生活を苦しめてきた高インフレにMMTは対応力がないのでは、という大きな疑問点だ。そのときは増税のブレーキをかける、としているようだが、日本は異次元金融緩和で景気浮揚させてきたため実質的に金利政策が効かないようになっているのでMMTのいう財政膨張には増税によって出回った金を吸い上げるしかない、と辻褄合わせをしているが、そんな乱暴な経済政策をやれば国の信用性は内外にがた落ちになる。

>結局、MMTなどと耳目を引き付けることを言わずに大人しくケインズ政策の枠内でできることをやれば良い。できないことはやらない方が良い。傷口を広げるだけだから。

>ステファニーレイトンの来日記者会見は動画にアップされていたが実際の経済政策の話になると慎重な姿勢を崩さずこれだったらケインズと変らないのじゃないか、とおもった。この動画が今でもアップされていたら視聴した方が良い。

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 日本語版~あとがき エマニュエルトッド

引用

「ロシアでは多くの若者がエンジニアとしてのキャリアを志向しています。

OECDの調査によれば2019年時点で、高等教育の学位取得所のうちエンジニアが占める割合は、

>米国7,2%に対して⇒W。他国のエンジニア依存!手っ取り早くエスタブリッシュメントに位置するためにはエンジニアは不向き。技術者のローマ帝国化か?

ロシアは23,4%です。⇒W。軍事と科学偏重!文系不足でパノラマ描けずウクライナ侵攻。

>日本は18,5%

韓国 20,5%

独  24,2%

英国 8,9%

このエンジニアの不足は米国は国外、特にアジアからの輸入で補っています。

~~

 米国にとって真の問題は

一度捨ててしまった生産現場を復元することは果たして可能なのか

そのプロセスは、可逆的なのか、不可逆的なのか、ということです。

かつて村落から人々が街に出て都市化が進みました。

このプロセスは不可逆的なもので、後戻りすることはありませんでした。

同じように米国にとって産業に立ち返ることはもはや不可能ではないのか。

産業の再生は、単なる物理的な設備に留まる問題ではなく、一種の習俗システムにかかわる問題だからです。

産業に必要な集団歴規律を取り戻すかが問われています。

 ~~~トヨタに部品を納めていることを誇りに思っている中小企業経営者の話です。

>その会社が米国にも工場を作ったのですが結局撤退しました。

彼が言うには労働者がきちんと働かないからだ」と。⇒W.思った以上に利潤が出ない、に尽きる。

これにたいして20世紀初頭から第二次世界大戦にかけて他国を圧倒した米国の産業は国内の勤勉な労働者に支えられていたのです。

W。トランプ支持層が勤勉な労働層とはとてもおもえない。

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エリック・ゼムール - Wikipedia

1958年8月31日セーヌ=サン=ドニ県モントルイユアルジェリアユダヤ人の家庭に生まれた[2][3]アルジェリア戦争の際に一家はフランスに渡った[4]。祖先は1000年もの間アラブ人と共存してきたベルベル系ユダヤ人であるという[2][5]。」⇒w。核心的イデオロギーがなく、逆張り言説のヒトとみた。

2022年4月のフランス大統領選に向けた国内の世論調査で目下、エマニュエル・マクロン現大統領に次ぐ有力候補と目されているのが、極右の論客エリック・ゼムールだ。

このゼムールと、日本でも有名なフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッドは過去に保守系の「フィガロ」誌上で対談している。米国トランプ政権の誕生を予見したとされるトッドと、「フランスのトランプ」になるかもしれないゼムールの“対決”から見えてくるフランスの、いや世界の未来とは──。

エリック・ゼムールとエマニュエル・トッド。どちらも出版の世界で成功を手にし、激しい論争を引き起こしたり、白熱するテレビの討論番組も経験したりしてきた。

フランスを代表する知識人の論客であり、同時に物議をかもす存在であるところも共通する。EU建設への批判では同じ立場だったふたりだが、イスラム教やアイデンティティの問題に関しては対立する。

ふたりが対談したのは、トッドの『我々はどこからきて、今どこにいるのか?』(2017年刊、邦訳は文藝春秋より刊行予定)という人類史をたどる壮大な著作の刊行が機だった。

両者の意見は、「エリートの裏切り」と「フランスの分断」については一致する。だが、トッドがフランスの分断の原因を経済主権の喪失にあると論じるのに対し、ゼムールは移民による人口構造の激変が原因だと語る。⇒W。「我々はどこから~~」におけるトッドのEU論(結局、独経済主導、仏政治補助で、東欧は独経済圏化。EUは一つの塊として帝国化している、とトッドも文中で認めている)とくにドイツの果たしている役割について反俗日記の言説とほぼ同じだった。どこからか教えられたわけではないが、観察していれば解る。

このふたりの活発で実り多い前代未聞の討論が「フィガロ」の紙面で繰り広げられた──。

中国はフェミニスト的な西洋の近代とは逆の方向を進んでいる


──グローバル化の推進派は「地球がひとつになった」と言いたがります。しかし、トッドさんに言わせれば、それは幻想に過ぎない。そんな幻想は、文化システムの違い、とくに文化システムの根本にある家族構造の違いという現実にぶつかると、すぐに崩れてしまうと指摘しています。

西洋諸国では、個人主義の消費文化が勝ち誇っていますが、その勝利が確定したわけではないということなのですか。


エマニュエル・トッド:「世界がひとつになった」というのはグローバル化の標語ですが、歴史人類学を学んだ者にとって、そんな戯言を信じろというのが無理です。世界はますます多岐多様になっていると言ったほうがいいくらいかもしれません。

 

  W。以下、トッドの自著、上巻のアウトライン、核家族原初論の解説が始まる

本当の意味で世界がひとつになったグローバル化が起きたのは、ホモ・サピエンスが地球全体に広がったときのことです。ホモ・サピエンスの家族構造は、核家族で、父方と母方の親族とそれぞれ柔軟な関係を持つものであり、それが世界に広がったわけですからね。

ただ、紀元前3300年頃のメソポタミアで歴史が始まるW.農耕と大規模灌漑に必要な共同作業向きの機能重視の家族形態に拡大編成、文字記録は共同体同士の連携に必要と、

家族システムが複数登場し、次第にそれぞれの家族システムが複雑になり、女性の地位が低下し、それぞれ地球の各地に広がっていきました

>そのため男女の関係が比較的平等な原初の核家族のシステムユーラシア大陸の周縁にしか残っていません。

 W。根っからの西洋人トッドは中国史を理解する意思無し。Wも中国は苦手だったが毛沢東の軍事論文のダイナミズムに魅かれ、中国史専門家たちの編著(宮崎定一等)で中国史を見るキーポイントを教わった。

トッドは日本を理解するとき、ドイツと対比する。親日家であるが。ドップリ西洋的教養を身に着けた人に日本は不思議、特殊な国の認識に留まる。極東の国、日本。歴史の主要プレーヤーではない。

**⇒

国連のパンフレットなどを読むと、どの国の人も女性解放に賛同しているかのように思えてしまいます。

しかし、西洋社会を追い抜くと(間違って)言われている中国を見てください。人口13億人のあの国では、父系の家族システムがますます強化されています。新生児に占める男児の割合が高まっているのです。人工中絶という近代的手段で産み分けをして、女の子100人に対して男の子120人が生まれる状況になっています。

同じようなことはインドでも起きています⇒Wインド人民党ヒンズー教政権党世界最大の1億2千万党員。ポピュリズムからファシズム政党に発展。大衆動員による威圧しムード作り。

こうした地域では父系の原理(男子への相続が優先される原理)が強まっており、フェミニスト的な西洋の近代とは逆の方向を進んでいます。

人権という名の衝立の裏を覗くと…


エリック・ゼムール:トッドの著作を読んで惚れ惚れとするのは、いまの話のように短期よりも長期が重視する見方が披露されるところです。家族や宗教の構造のほうが、経済よりもよほど重視されています。

「政治が経済至上主義に陥ってしまっている」と批判し続けてきた私にとって、トッドの手法には痛快さしか感じません。

「世界がひとつになった」という話について言えば、人権という名の衝立の裏を覗くと、文化、国々、民族のあいだで絶え間ない紛争が続いているというのが私の考えです。

トッドは今回の著作で西洋社会が母権制に移行するという、史上類を見ないことが起きつつあると書いていますが、それはまさに私が10年前、『女になりたがる男たち』で書いたことでした。

あの本のせいで私は大量の罵倒を浴びることになりましたけれどもね。(続く

世界の多様性を描きつつ普遍主義を支持するふたりのトッド

エリック・ゼムールが断定「エマニュエル・トッドジキル博士とハイド氏だ」

私たちが正面からぶつかる論点もあります。現状の認識が同じでも、そこから導き出す結論に極端な隔たりがあるのです。

私はゼムールと違って、諸民族が闘い合うといった劇的なビジョンは持っていません。世界が多様だと分析することは必ずしも暴力につながるわけではないのです

むしろ世界がひとつになったと言うような人ほど紛争の種を蒔いていると考えています。⇒W,グローバリズムに対する至言である!

トッドは「ジキル博士とハイド氏」だ


ゼムール:たしかに私は世界史を紛争の歴史であり、それが変わることは未来永劫ないと考えています。哲学者のジュリアン・フロイントは未来がどうなるかと尋ねられて「虐殺だよ」と答えました。私も同じ考えです。

トッドの問題は、彼がジキル博士とハイド氏だということです。人口学者・博識家のトッドは世界が多様であることを見事に描き出します。一方、知識人・左派人権活動家のトッドは普遍主義の支持者です。このふたりのトッドのあいだに衝突があるのです。

トッドの著作を20年前から読んでいますが、そこでは直系家族に対する高い評価が見え見えです。直系家族が世界全体に抵抗できているから評価が高いのでしょう。

イギリスの核家族モデルがどうして優れているのかという話でも、英国貴族によって導入された直系家族の要素が重視されています。

トッド:その見方には賛同できません。でも、ゼムールがちゃんと本を読んでいる人物だと知り、いま感動してしまいましたよ。

ゼムール:なにが普遍主義者のトッドを苦しませるのか。それは自分が嫌いなものが自分の好きなものよりも優れていることを発見してしまうところなのです。

トッドたしかに自分の発見と自分のイデオロギー上の傾向のあいだに葛藤が生じることは、これまでの人生でもありました。

しかし、今回の本『我々はどこからきて、今どこにいるのか?』で表に出ているのは、歴史家・人類学者としての私です。

前著『シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧』刊行後の論争で、すっかりトラウマを抱えることになりましたからね。私は論争には向かない性分なのです。ですから今回の本は研究に戻ったのだと言えます。

エリート主義とポピュリズムのあいだで交渉があるべきだ


──とはいえ今回の本でも「あとがき」の部分にかなりの政治的な態度表明があるように思えます。

2016~17年は、エリート主義とポピュリズムがぶつかるアヌス・ミラビリス(ラテン語で「驚異の年」の意)でした。米仏英という西洋の三大自由民主主義国家を見てみましょう。この三国では高等教育を受けていない人たち、すなわち「グローバル化の負け組」が反乱を起こしました。

観察すると、この抗議活動に対するエリートたちの向き合い方には三通りあることがわかりました。

フランスでは、マクロンが大統領に選ばれました。上流階級が傲慢に勝ち誇り、低学歴の労働者を踏みにじったのです。

アメリカの状況は、フランスとイギリスの中間でした。庶民階級の白人がトランプに権力を握らせたので、共和党のエリートはトランプを支持せざるをえなくなりました。しかし、大学、シリコンバレー、メディアといったエスタブリッシュメントがトランプの正統性を認めなかったので、アメリカは分裂状態に陥ったのです。

一方、イギリスでは小さな奇跡が起きました庶民階級がEU離脱に票を投じたところ、エリートたちがその選択を受け入れ、それを実行したのです。

W.日本庶民の代弁者は、自らの置かれた状況を投票として表現できる契機が予め封殺されて政党的に分断され、そのために鬱積する普遍不満を支配政党と行政機構が己の利益のためだけに利用している。コレは米英仏にない本物の裏切り行為である。

私はこういうイギリス流の解決策がいいと強く主張しています。エリート主義とポピュリズムのあいだで交渉があるべきなのです。⇒W.日本語版刊行2020年、あとがき参照。冒頭に挙げた。ナショナリズム保護貿易主義はリアルに貫徹できるのか?

>物価高で苦しむだけ。

>20世紀の帝国主義の歴史も考えてみる必要がある。保護貿易主義、ブロック経済⇔戦争ではなかったか。かじ取りは難しい。

──なぜイギリスはうまくいったのでしょうか。
 W。以下の下りを著書では数値を挙げて理論的に説明しているが、ここまではっきり言ってくれると解りやすい!カーストあべさんが暗殺の要因がわかる。

トッド:フランスとアメリカの共通点は、能力主義を理想としていたところです。能力主義こそ最も平等だという信念があったのです。

ただ、能力主義には危うい側面がありますそれは学校で勉強ができた人たちが、自分は誰からも恩義を受けることなく、自力で成功したのだと思い込み、自分の下にいる人たちとの接触をいっさい失ってしまうところです。

自分が最も優秀なのだと本気で信じ込んでしまう人たちが出てくるのです。とくに何もないところからプチブルに成り上がった人たちが、このような感情を強く持ちます特権に恵まれたカーストの出身者だと、自力ですべてを成し遂げたとは、たとえ言いたくても、とても言えませんからね。

貴族主義の要素があるイギリスがうまくいったのは、この能力主義に完全に染まっていなかったからなのでしょう。⇒w。ナルホド辻褄があっている!能力主義エリートとは一線を置かざる得なかったアベさんがネット右翼に人気があった構図が解る。

フランスでは異なる3つの「家族システム」が衝突している? ──トッドさんの本にはこう書かれています。「フランスは現時点では逆の道を選んだ。それはポスト・ナショナルの道、EU自由貿易グローバル化を重視し、国境や移民の問題に無関心でいる道である」。マクロンが大統領に選ばれたのはポピュリズムの躍進を抑えるためのものだったのでしょうか。
ゼムール:まず指摘すべきは、これが政治の問題だということです。フランスのグローバル・エリートたちにしてみれば、自分たちの支配を維持していくうえで、マリーヌ・ルペン国民戦線(現「国民連合」)の存在ほど好都合なものはありません。⇒W。鋭い!ついでに言えばウクライナ戦争にも助かっている。ウクライナ支援を強行し続ける右派にたいして優位たち自己保身できる。マリーヌ・ルペンは、トランプやブレグジットの成功要因が何だったのかまったくわかっていませんし、私が見たところでは、自分の成功の理由すら何もわかっていません。それからもうひとつ言えることがあります。フランスでは、イギリスやアメリカと異なり、国民国家が徹底的に破壊されたということです。
フランスのエリートたちは最もグローバル化していました。40年前から、フランスは国民国家を脱した国家だと言っていましたからね。⇒W。EU帝国の支配層に移行。根が深い。
フランスのエリートのほうが英米のエリートたちよりも自国の庶民を軽蔑する度合いは強かったのです。私に言わせれば、マクロン1830年ルイ・フィリップです。ブルジョワが同盟を組んで、庶民を抑えつけているのです。⇒W資本とカネに国境は無い!ついでにヒトの移動自由も低賃金労働力を得られるのでありがたい!ドイツ資本家団体は移民大量受け入れにシフトした。グローバル資本制から利益を得るのがブルジョア支配層。

フランスのエリートの「倒錯した普遍主義」

トッド:いまの発言を聞いて非常に居心地が悪いです。なにしろ完全に同意してしまいますからね。上層にいる人たちは、下にいる人たちとの結びつきのほうが、よその国の上層の人たちとの関係よりも大切だと今後も考え続けられるのでしょうか。
フランスのエリートの特徴は、もはや自分たちをフランス人だと思わなくなっていることです。このポスト・ナショナルな態度は、倒錯した普遍主義です。上層にいるフランス人も、頭の中にパリ盆地の自由主義と平等主義の価値観があります。彼らの頭の中に「普遍的人間」という観念⇒Wこの観念操作は日本人にはわかりにくい。大胆に例えると天皇の下の自由平等な臣民(属性を消した架空の存在)=普遍的人間があるからこそ、フランスには、人と人が互いに平等であり、
フランス人であると同時に普遍的人間にもなれる、そんな立派な共和国が成り立つこともあるのです。⇒W.ソ連邦崩壊を受けて書かれた新<人権宣言>反俗日記で詳しく書いた。とうじ、理解しようと努力した。革命的中央集権国家主義である。国家官僚エリートの平等、人権国家を守る指導的立場を理念化している稀にみる宣言文。
しかし、社会が分断状態になっているときは、この観念のせいで、上層にいる人間たちが地方の庶民に優越感を抱き、国民国家からの脱却といったことを考えはじめてしまいます。フランスの普遍主義には偉大なところがありますが、いまはそれが災厄をもたらしています。

ゼムール:普遍主義が偉大なものになるにはナポレオンの軍隊が伴わなければなりません。それがないのであれば、普遍主義の別名は裏切りです。

フランスに独特な「ふたつの家族システム」


──フランスでは、他の国々とは異なり、国民国家への回帰という動きが出てこないのでしょうか。

ゼムール:各国から国民が消えたためしはないというのが私の考えです。ドゴール将軍は「ソ連とはロシアのことだ」と言いました。スターリンは、アレクサンドル1世以後では最大のロシアの愛国者です。ついでに言うと、エリートが裏切るのはフランスの伝統です。だからこそフランスでは国家が強く、リシュリュールイ14世、ナポレオン、ドゴールといった人物が必要になるのです。トッド:人類学の視点で言うと、フランスには独特な特徴があり、そのせいでフランスという国が大きな危険にさらされています。
その特徴とは、この国に古くからふたつの家族システムがあることです。パリ盆地に個人主義的で平等主義の家族システムがあるのに対し、南東部のローヌ=アルプ地域圏や南西部は直系家族なのです。
直系家族の地域は、ドイツや日本と同じように相続人はひとりであり、それが秩序を作りだします。フランス北部がアンダルシアやイタリア南部の運命を回避できたのは、この不平等な家族システムのおかげでした。フランスは矛盾をはらむ形で成り立っているのです。中心部に3分の2を占めるアナキズムの地域があり、周縁に位置する残りの3分の1が秩序を保つ地域なのです。これが魔法のように絶妙なバランスをとれるときもありますが、逆に内戦状態を生んでしまうこともあります。いまはユーロという複数国家をまたがる通貨のせいで、フランス国内でふたつの家族システムが補完し合える状況を作れていません。
ローヌ=アルプ地域圏の直系家族の地域は、EUの真の中心地であるドイツのほうに親和性を感じるようになっています。ドイツは日本と並んで、直系家族の大国ですからね。
エリートの裏切りというよりも、直系家族の地域の裏切りが起きています。中心が中心でなくなっています。フランスが一地方ずつ引きはがされていく様子がほとんど目に浮かぶかのようです。

「第三の家族システム」

ゼムール:地域の裏切りもフランスの伝統です。私にとってフランスの歴史は何といっても内戦の歴史ですからね。そこではつねに右派と左派、プロテスタントカトリックブルゴーニュ派とアルマニャック派が闘っています。
フランスでは中世初期からふたつの家族システムがぶつかり合っているとトッドは言います。私に言わせると、いまそこに第三の家族システムが大規模に加わろうとしています。イスラム教徒の内婚制の父権的な家族システムのことです。この家族システムが、既存のふたつの家族システムとぶつかっており、かつてこのフランスという国に起きていた内戦のような衝突が起きようとしています。
トッドは人口学者なのに数を重視しませんが、私はエンゲルスのように量が一定の値を超えれば質に転換すると考えます。フランスの領土ではイスラム教がいま、時間や空間との関係を変えようとしているのです。
不思議で仕方がないのですが、トッドはドイツを見るときのほうがフランスを見るときよりも明晰になります。100万人の移民を受け入れたメルケルの決定を正気ではないと言っていましたが、フランスについても同じことを言ってもらいたいものです。トッド:移民と移民受け入れ側の社会の家族システムの違いに着目したのは私の『移民の運命』が嚆矢でした。どうして移民の受け入れが大変になるのか、その根本原因を明らかにしたのです。
ただ、1992年の時点では、フランスにおけるアルジェリア系の女性の民族混交婚の率が25%だったのに対し、ドイツではトルコ系の移民の民族混交婚は2%以下でした。そのときのフランスは移民を同化できていたわけです。
ところが、その後、単一通貨ユーロの導入のせいで経済が行き詰まり、社会移動の速度が遅くなりました。フランスの社会はいま行き詰まっています。失業率が10%で高止まりする構造になってしまっています。私はエルヴェ・ル・ブラーズとの共著『不均衡という病』で、移民の同化がうまくいかなくなっており、フランスにおける民族混交婚の率が、よその国よりも高いにせよ、低迷していることを指摘しました。
とくにマグレブ系が暮らす地域が地理的に集中する現象も目立ちます。内向きの現象があることは否定できません。
ただし、それはすべての社会集団で起きているのです。内向きになる内婚制の現象がブルジョワ階級でも各地方でも起きています。社会が行き詰まったせいでフランスが小さな集団に分裂してしまった状況です。
フランスでイスラムの同化は不可能だ

ゼムール:トッドの議論で私にわからないのは、経済は二次的でしかないと本で480ページも費やして論じておきながら、イスラムの話題になると、20年前から続く経済の行き詰まりを持ち出してきて、その裏に隠れてしまうところです。

イスラムはつねにその家族モデルを押し付けます。イスラムの同化は不可能なのです。フランスという平等の風土にイスラムが溶け込めるとは言えないのです。

トッド:経済にも価値があるというのが私の立場です。経済の停滞とゼロ成長が20年も続けば、同化の現象にも影響が出ます。行き詰まった社会は、同化の力を失うのです。現実的になって人類学と経済を考慮に入れていくべきです。

トッド:人類学の視点で言うと、フランスには独特な特徴があり、そのせいでフランスという国が大きな危険にさらされています。
その特徴とは、この国に古くからふたつの家族システムがあることです。パリ盆地に個人主義的で平等主義の家族システムがあるのに対し、南東部のローヌ=アルプ地域圏や南西部は直系家族なのです。
直系家族の地域は、ドイツや日本と同じように相続人はひとりであり、それが秩序を作りだします。フランス北部がアンダルシアやイタリア南部の運命を回避できたのは、この不平等な家族システムのおかげでした。