反俗日記

多方面のジャンルについて探求する。

第一回。平成24年版通商白書。<第1節我が国の通商・経済の変遷と構造変化>の抜粋と検討。

         <我が国の貿易・資の構造と変容>
第1節我が国の通商・経済の変遷と構造変化
  
    <前提としての経済構造分析>
(2)「経済圏」とその独立性の変化
 <「完成した経済構造」>(以下、「完成形」)とは、
経済発展により、その「経済圏」内で需要される財の生産をほぼ圏内で行えるようになり、それぞれの<産業の自給率が高い水準を達成している経済構造>を指す。
今風の表現では川上から=素材、部品から中間財、川下=完成品までの一連の流れを日本国内で賄えていたということ。
 イ)この評価方法に基づいて、1990 年頃までの我が国の経済構造を説明すると、「完成形」に近い構造を維持していたと説明できる。
その理由として、資源や農産物の自給が困難という条件下で、低い貿易依存度を長年維持し、かつ貿易黒字を維持できていたことがあげられる。
 
  しかし、このような経済構造が維持されたのは、
 ロ)欧州のように高度に工業化した国が周辺になく、産業構造的に独立していた、という面がある
しかし変容してきている、というのが以下展開されている論旨。
第2節東アジアにおける国際分業構造とその変容>において、いわゆる三角貿易が行われているとの説明がある。基本的な構造として、1、日本等が基幹部品を中心とした中間財を輸出し、2、比較的労働コストの低い中国等で組立てが行われ、3、最終需要地としての欧米へ輸出される。
 我が国は輸出、輸入共に米国の輸出と同じ10%程度で推移していたのが、2004 年以降急激に増加し、2006 年以降は米国の輸入、EU27 の域外との輸出、輸入並みに増加している。
このことから、「我が国は資源や農産品を他国に依存する割に、貿易依存度が低い」という説明が、過去のものであることが確認できる。
貿易依存度の上昇と産業構造の変化は違う、と後にクドクドと説明されている。この点、誤解のないように重要な論点であり、2000年代の小泉政権時代の構造改革の評価ー現在のアベクロ、インフレ政策を俯瞰する視点を官僚が提供してくれている。
  主要国の依存度をネット情報で調査比較する。
イメージ 1

 このグラフの作成者のコメントは官僚や財界の基本戦略。依存度が余りにも低すぎる、農業など生産性の低い部門は韓国を見習って切り捨て、海外市場で金儲けをしよう、といっているのである。
<その他大勢を、つなげて付加価値を高める>のは進出先の成長市場への資本移転に結果的になる。
勿論、税金は進出先で支払うことになる。
 
 乱暴に要約すると
少子高齢化、人口減少の国内市場の投資、需要の限界を見切って、貧困層を拡大し、利潤率を高めるだけでいい、不平不満、鬱屈に対しては、愛国排外の大人の玩具を投げ与えておけば、何とかなる。
 若干の資産保有に対しては、インフレ政策継続で揺さぶって日米共同の支配層に資産移転させる。
 以上が日米共同支配層の基本戦略である。
 
 ヨーロッパ最先端事情は以下のようになっている。「フランス最新事情」から引用。
「1)イ、金融、経済のグローバル化が進み、ロ、国家が経済政策、社会政策の領域で影響力を減少させている中、
ハ、<国内の治安維持>は<国防>と並び、国家が存在意義を誇示できる数少ない領域」となっている。
2)ニ、西ヨーロッパの福祉国家では、1970年代以降、ホ、国内の企業が人件費と法人税の安い国に生産拠点の移転を図ったため、
ヘ、国内の失業が増加し、税収が減少し、それまでの福祉国家を維持することが難しくなった
 
3)失業が増大している上に福祉が削減されれば、必然的に貧困層が増大する。
以上の趨勢をグローバル資本制下の20世紀の国民国家の枠組みの変容と総括できる。
 
 A)だが貧困層の増大は貧困層以外の人にも不安を与え、社会全体に不安を与えることになる??
そこで(人々に不安を与える)
B)<貧者を監獄に収容する、という厳罰化政策が、軒並み先進国>で取られるようになった。
アメリカの対テロ戦争には、国民の安全を守るためならば、国際法違反も厭わないという姿勢がみられ、
C)<法を凌駕する安全装置に統制される社会>はきわめて今日的な問題として現れている。
 こうした情勢の中で安全の概念が犯罪、テロなどに対する取締りという
D)<非安全に備えての安全という保険の論理>が世界中で浸透している。」
 
 (2)「貿易」、「経常収支」、「投資収支」の変遷
   <「経常収支」の変化>
 貿易収支=財貨の輸出と輸入の差益。
「貿易外」は大まかには、「サービス収支」=赤字、<所得収支>=黒字、「経常移転収支」=赤字からなる。
>>1964 年以降の貿易収支はGDP 比2%前後で黒字を維持してきた。しかし、2000 年代後半になると縮小傾向となっている。
  
 「貿易外」収支。
長年赤字だったものが2000 年前後に黒字化し、2000年以降急増したことが分かる
「所得収支」以外は現在でも赤字であり、黒字化は「所得収支」の受取の増加によるものである。
<「所得収支」の受取は主に、「直接投資」、「証券投資」などの国外の資産を購入したことによって得られた収益(配当や利子)>である。 
 
>(直接投資)=外国における企業の経営支配を目的として行われる対外投資。既存企業の株式の取得、子会社の設立、支店・工場の新設などの形態をとる。
1990 年以降は、投資収支の資産は流出超で推移していることから、我が国の海外(国外)資産の取得が継続していることがわかる。
 以上の趨勢を過激に要約したものが、上記のコメント。国民国家の変容という時代認識とあわせて考える。自ずからアベクロ、インフレ政策と愛国排外のワンセット、メダルの裏表関係が理解できる。
 
 (3)「貿易統計」と目的別内訳の変遷
 まず輸出を見ると、2004 年までに増加しているのは主に「資本財」であり、消費財(「耐久消費財」、「非耐久消費財」)の輸出はそれほど増加していないことが分かる。
特に「他工業原料」が増加していることが分かる。「他工業原料」は、「化学工業生産品」、「金属」、「繊維品」などからなる。
 
 >>このことから、中間財の輸出が増加していることになる。
 要因としては、各国の経済発展、工業化により、最終財では価格競争で勝てなくなり
イ)一部の技術度の高い中間財の輸出にシフトしている、
ロ)あるいは海外生産のための部品の輸出が増加していることが考えられる
>>2000 年以降は「粗原料、鉱物性燃料」など加工度の低いものが著しく増加する一方で、
加工度の高い中間財が含まれる「他工業用原料」も増加していることが分かる。
 
 このように、中間財輸出、中間財輸入、最終財輸入が増加していることから、
>>資源を輸入して最終財を輸出する、いわゆる「加工貿易」と言われてきた我が国の貿易の姿は既に大きく変化していることが確認できる。
 故に、為替の高低は日本経済全体の交易条件を左右するものでなくなっていると、官僚が報告書で述べている。
 
 (4)産業構成の変化
>>米国とEU27 は2000 年以降にも付加価値ベースでの製造業の比率の低下が見られるのに対し、我が国とドイツでは1990 年代に見られるものの、2000 年以降には見られないことが分かる。
>>我が国の変化を詳しく見ると、1990 年代の構成比の変化が激しいことが分かる。
 特に「製造業」と「建設」の縮小と「その他」の増加が見られ、第三次産業が7 割を占めるまでになっている。
>>しかし2000 年以降は、構成比に大きな変化は見られない。
>>このことから、「空洞化」を訳す際に当てられることの多い「Deindustrialization」(脱工業化)は、我が国では2000 年以降見られないことになる。
脱工業化)(付加価値ベースの製造業の比率低下と解釈)は2000年以降、見られないということ。ドイツも同じ状態。
 「空洞化」
国内の産業連関が途切れるという共通の結果をもたらしていることになる。国内の産業連関が断絶すれば、途切れた箇所以降の生産活動がなくなり、それに伴い賃金による分配、税金による再分配が減り、内需が縮小する結果、国内の経済規模が縮小する。
その結果、これに代替する新たな産業が興り、又は新たに外需を取り込むといった変化が生じない限りにおいて、国内の経済規模が縮小する。
  
 ここでの論旨は経済構造の脱工業化の進展が2000年以降、見られないまま特定グローバル企業が付加価値を稼いできた現状を改変していくために、それ以外の部門、企業も成長市場を持つ国や地域に移転するほかないという戦略方向性の明示である
 
 (5)「経済圏」内の経済的つながりと輸出の役割
、国全体を俯瞰して見る、「マクロな視点」でもって、国内における経済循環の構造を把握、評価する必要がある。そのため、生産活動の結果である付加価値が、賃金や配当などを通じて分配、また税金や生活保護等による再分配を通じて、国内の消費や投資などに使われ、生産を喚起する「波及効果」の循環が順調であるかを評価することが重要となろう。
 綺麗ごとだ。戦略方向に生産活動の成果の分配や政府政策を通じた再分配は蔑ろにされ、見切られている。