反俗日記

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東アジア情勢における日米韓のリアルな動向(重要論文)。1)季刊「創作と批評」日本語版歴史と安保の分離は可能か~日本の右傾化と日韓関係~2)補足、IWJブログ「第3次アーミテージレポート」

   歴史と安保の分離は可能か~日本の右傾化と日韓関係~2014年「創作と批評」 春号(通卷163号)
権赫泰:聖公会大学日本語科教授、著書として『日本の不安を読む』『戦後の誕生』(編著)などがある。
 
W。韓国発の情勢分析には、緊張感のあふれる鋭い視点のもが多い、と昔から認識していた。
内外関係の緊迫した情勢が、分析家の実存に届いている。情勢認識と判断と行動を誤ると大変なことになる、という状況が厳としてあるから、日本発の情勢認識によくある政治的アジテーション、淡い政治的希望の部分がそぎ落とされている。
 前回の記事で織り上げた論文、~統一大当たり論と進歩の議題~2014年 夏号。 金昌洙
は比較的政治実践主体としての積極的な思惑が絡んだものであり、敢えて言えば、政治的アジテーションの部分が見受けられた。
日本でいえば、どのような政治勢力が、コレに該当するか、考えておく必要がある。


  その政治的軍事的要因は~日本の右傾化と日韓関係~論文は次のように認識している。

 引用。
W。冷戦秩序の崩壊は東アジア情勢にも及び、日本にとって最早韓国は、かつての反共の防波堤ではなくなっている。
 
『ロ)1980年代後半の1)冷戦体制の解体と2)韓国の民主化は、「65年体制」に決定的な転機】をもたらした。
一つは、【「65年体制」の前提条件だった南・北間の極端な対決構図に融和の雰囲気が造成】され、
1)A、韓ソ国交回復(1990年)、韓中国交回復(1992年)が実現し、
**ロシア-中国-北朝鮮を包囲する既存の米・日・韓有事同盟体制の変化が不可避になったという点である。
>*特に日本の立場から見れば、「65年体制」下で韓国が主に引き受けていた軍事的リスクが日本へと一部転移し、米国と韓国に依存していた既存の安保政策に変化が必要となった。(W?説明不足だが、重要な戦略的視点。冷戦秩序と不可分一体であった韓国独裁体制の民主体制への転換に力点を置くと、韓国はかつての一方的防波堤の役割を果たす必要がなく、外交政策における柔軟性を獲得した、考えると、この認識は理解できる
>*1990年代以後、自衛隊の外縁拡大(W、日米安保における自衛隊の日米作戦行動地域の拡大)、日米同盟の強化、そして憲法改定の動きは、こうした背景から表れでた。』


 W。~統一大当たり論と進歩の議題~論文は欠陥があるものの、アジア金融危機後のIMF介入による新自由主義経済政策の実施と同時進行した民主化体制10年の果てに、大きな支持率を得て登場した保守政治の経済重視、対北強硬政策への転換の「挫折」の流れのなかで、保守政治に対する国民の求心力を維持するための【デジャビュー、朴槿恵政権】の政治デマゴギーと目暗ましを浮き彫りにしている。
統一大当たり(大儲け)論は民主化時代の対北太陽政策と緊張緩和へのデジャビュー(確かに見た覚えがあるが、いつ、どこでのことか思い出せない」)の方向に選挙民を誘導し、公約である「経済民主化」と「福祉」議題の不履行を隠蔽する。歴史、領土問題に関する強硬姿勢も国内向けの政治対応であり、日本の安部政権の強硬姿勢と本質的に同根である。


 以上のような民主化体制10年から保守政権の流れの根底には次のような社会経済事情がある。
 引用。
『***【圧縮型近代化】の過程で表出した急激な世代間の職業および階層移動の時代が終わりを告げ、一部の特定支配階級内で職業および階層の世襲化と固定化が予想されるのだ。』
W。デジャビュー、朴槿恵政権】の政治デマゴギーと目暗ましの他愛もない政治が通用するのも、こうした経済発展途上の階層流動化が沈静し、社会の固定化=保守化が進行している事に原因があるようだ。
いわゆる、前回の記事で取り上げた進歩勢力の政策に空回り感が付きまとうのも、そうした韓国社会経済の実情に有効な政策を打ち出せずにいることにあると思える。」


         本文、引用
  歴史と安保の分離は可能か~日本の右傾化と日韓関係~2014年「創作と批評」 春号(通卷163号)
 
      1、安倍首相の「危険な賭け」:靖国神社への参拝
 米国にとって、靖国神社は二つの次元の問題である
  A、次元の問題~東京裁判サンフランシスコ条約=米国統制下の戦後世界体制(アメリカにとってもう譲れない歴史問題。)
靖国神社に合祀されているA級戦犯14人(7人は絞首刑、7人は病死)は、敗戦後「戦犯」国家の日本に対し、米国が主導した極東国際軍事裁判(東京裁判)が下した歴史的決定である。
そして、日本はサンフランシスコ講和条約第11条の規定により、この裁判結果を「受諾」(accept)したことを公認した。
 したがって、A級戦犯に下された判決を「悔しさ」で包装したり、これは勝者が敗者に下した誤った決定だとみる歴史観は、東京裁判およびサンフランシスコ条約と矛盾せざるをえない。
 だから、靖国神社に合祀されているA級戦犯に対する日本政府の公式参拝は、東京裁判サンフランシスコ条約を否定する行為であり、その歴史的基盤の上に立っている戦後体制と日米関係に対する明白な挑戦行為である。
  
  B、次元の問題~東アジア安保保証体制~
 しかし、今まで米国は靖国神社への参拝に対し、公式的に「失望」のような単語を使って声明を発表したことはなかった。
では、なぜ米国は安倍首相の靖国参拝に対して、外交的なアドバイスをためらわなかったのか。
やはり、靖国参拝東北アジアにおける軍事的緊張の高まりへと進展することに対する憂慮が大きく作用したと見なければならない。
特に、就任初期から一連の「暴言」によって、中国や韓国と葛藤を引き起こしてきたので、靖国神社への参拝は「火に油を注ぐ」行為と判断したのだろう
したがって、米国の「失望」は靖国参拝という行為自体よりも、領土問題および歴史認識などで、安倍政権が韓国と中国に対して葛藤を深めてきたという点にある。
    
     <W。靖国参拝と米国東アジア政策の思惑と許容範囲>
*もちろん、日中間の緊張の高まりは米国の対アジア政策に必ずしもマイナスになるわけではない。
むしろそれは、日米同盟体制下のアジアで、日本の軍事的役割を増大させようという米国の利益と適合する面もある。
*中国との葛藤・対立が高まるほど
日本国内の安保への危機感は高まり、日本の米国依存度が高まるたけでなく、米国が日本に対して要求し続けてきた、憲法改定や集団的自衛権をめぐる日本国内の拒否反応が弱まりうるからである
>*しかし、米国にとってこの緊張の高まりは、どこまでも米国の「管制」下で作動しなければならない
中国の反発を予想しながらも、靖国参拝を強行した安倍首相の「危険な賭け」は、下手したら、日本が米国の管制から脱するという引き金にもなりうる、と米国は見たのだろう。
 
 もちろん、韓国との関係では別の側面がある。
日米同盟と韓米同盟を通じて、米国を頂点とした一種の有事三角同盟を結んでいる米・日・韓関係において、日韓の軍事安保的な連携は米国の対アジア政策にとって重要である。
李明博政権の時に、日本と韓国が推進した日韓軍事交流の動きも、こうした米国の要求に応えるための初期的な整地作業であった可能性が高い。
 *特に、朴槿恵政権と第二次安倍政権の同じ時期の成立は、両政権の理念的な性格を見る場合、日韓安保協力に対する米国の期待を高めただろう。
*しかし、現実は米国の期待とは異なり、歴史認識の問題をめぐって日韓両国の葛藤が先鋭化する結果をもたらした。
このようにみると、靖国参拝問題は第二次世界大戦に対する歴史的な評価であると同時に、
その歴史観を通じて東北アジアの安全保障問題へと連動しているのがわかるだろう。
つまり、東北アジアの問題が歴史認識と安全保障という二つの次元で機能・作動していることが、靖国参拝問題を通じて表れたわけである。
言い換えれば、東北アジアでの歴史と安保の問題は相関関係にある。←結論。


    
     2.安倍政権と朴槿恵政権の同時登場が意味するもの
右傾化という用語が政治理念の座標軸の流れを表すものならば、安倍政権はむしろ既存の右傾化の流れをより加速化させていると思われる。
実は、第二次安倍政権と朴槿恵政権が同時に登場した政権当初(2013年初め)をみると、両政権間の蜜月関係の可能性を予測する意見も少なくなかった。
  両政権の間に、いくつかの共通点が発見されるからである。
第一に安倍首相と朴槿恵大統領はともに「二世(世襲)政治家」であり、
第二に政治的象徴の意味では「維新」の復活を体現しており、
第三に政治理念的にも親米・反共保守の色彩が濃いという共通点がある。
 だから、朴槿恵大統領の登場は今後の韓国社会で二世政治家の勢いを予想させる節目ともいえる。
**【圧縮型近代化】の過程で表出した、急激な世代間の職業および階層移動の時代が終わりを告げ、一部の特定支配階級内で職業および階層の世襲化と固定化が予想されるのだ。
もちろん、単に人物の承継だけでなく、理念と価値の世襲性という点は言うまでもない。
*政治理念の側面では、冷戦解体後に日韓両国で表れた様々な政治的摸索が、結局は親米・反共体制の「復活」に帰結されたという点で、東北アジアにおける冷戦的な政治地形の強固さとその有効性が今も続いていることを示している。
こうした共通点のために、理論的には朴槿恵-安倍政権の同時登場により、開発独裁時代に表れた朴正熙独裁政権自民党の蜜月関係が復活する可能性が提起されたのである。
 
 両政権の登場直後に、筆者は東北アジアで相反する二つの流れが表出するだろうと予想したことがある。
その一つは、領土問題と歴史認識(慰安婦、教科書、靖国問題)で南・北と中国が「連携」して日本を包囲する可能性が高まり、日本の孤立が深まる流れである
もう一つは、外交・安保分野で中国・北と対峙する日・韓の連携傾向がさらに強まる流れである
 
そして、こうした相反する二つの流れの中で安倍政権が選びうるシナリオとして、次のような二種類を想定した。
①安保領域で韓国の協力を引きだすために歴史問題では戦術的に「自粛」の態度をとる場合、
歴史問題と安保領域の双方攻勢的な立場をとる場合、という二つである。
***1年経った現時点でみると、
安倍政権は②を選択したため、歴史葛藤の流れが安保領域における日韓連携の可能性を圧倒した。
もちろん、①の可能性が消滅したわけではない。
 
>>米国の同意の下に集団的自衛権を確保し、これを通じてアジアで日本の軍事的位相を高めようとする安倍政権にとり、韓国の安保協力は極めて重要である。
したがって、安保協力に障害となりうる韓国との歴史葛藤は短期的に避けたい選択であり、これはまた米国の意向でもある。
考えてみれば、靖国神社で重要な意味をもつ毎年4月の春季例大祭終戦記念日である8月15日、そして10月の秋季例大祭に安倍首相が参拝しなかったのも、韓国の安保協力を引きだすために歴史葛藤を極大化したくないという判断が作用した可能性がある。
事実、共同通信の報道(2013年12月29日)によれば、安倍首相は「(自らが)靖国参拝をこのように自粛しているのに、韓国と中国は対話を拒否している」と不満を漏らしていた。
さらに、北朝鮮との対決を鮮明に打ち出した朴槿恵政権にも、日・韓・米の協調体制を構築するためには日本との安保協力は重要であり、両政権間の協調の可能性はいつの時よりも高かったと思われる。


      **では、なぜ両者の関係は予想を覆し、悪化一路のまま来ているのだろうか。

>*朴槿恵政権の対日政策は極めて限定されていた。
実は、朴槿恵政権は領土-歴史認識の問題では原論的な立場に立ち、前進も後退もしない「現状維持」の態度を取らざるをえなかった。
**「前進」は日本との外交的葛藤を高めるだろうし、「後退」は国内の反発を招いて世論の悪化を引き起こすからである。
>特に、領土-歴史認識の問題で世論が悪化すれば、安保における日韓協力の動きに障害となる可能性が大きく、これは日韓両国の協調を望む米国の意向に反する結果をもたらす。
>だから、歴史問題で先制的・攻勢的には踏み出さずに、【安保領域と歴史問題の「分離対応」原則を固守】せざるをえなかった。
そうして、安倍政権の「自粛」を期待するとか、日本の「暴走」を止めてくれる米国の役割に頼らざるをえなかった。対日関係では原則論を繰り返す「静態的外交」が予想された理由である。


       >*問題を大きくしたのは、やはり安倍政権の方である。
>*では、なぜ安倍政権は領土-歴史問題について、韓国や中国の反発をかうような発言を繰り返してきたのか。
世論の動きに敏感な内閣責任制の属性上、支持率の行方は安倍政権にとって極めて重要である。
>その上、安倍政権は「経済活性化」(アベノミクス)とともに領土守護、憲法改定、靖国参拝公約に掲げて権力の座を握ったので、大衆的な人気を支える一要素だった領土-歴史問題を避けて通れなかったのである

 
 【安倍政権にとって最も重要な政策的目標は、アジアにおける日本の軍事的役割を拡大することだ】。いわゆる「集団的自衛権」の確保である。これは米国がずっと要求してきたことでもある。
集団的自衛権を確保しようとしたら、明文改憲の形であれ、解釈改憲の形であれ、憲法上の制約から脱しなければならず、そのためには消極的でも積極的でも、内外の「同意」が必要である。
>*日本社会の内部で相変わらず多い憲法改定の反対世論を、【賛成世論に切り換えるためには外部からの脅威を強調するのが最も効果的】である。
>*韓国や中国との葛藤を高めて「中国の脅威」論と「韓国の反日」論を強調すればするほど、日本国内の危機意識が高まり、【改憲に反対する世論を抑えこんで中間層を賛成世論へと引き込む効果が期待】できる
歴史問題での葛藤は、こうした危機感を助長するには極めて効果的な武器であった。
だが逆に、韓国との歴史問題での葛藤が高まれば高まるほど、安保協力は難しくなる。
>*つまり、歴史問題での葛藤は、安倍政権にとって「両刃の剣」であった。

>*結局、安倍政権が選択したのは、韓国の同意を短期的に放棄して自らの右傾化の歩みに対する支持率を高め、短期的には解釈改憲長期的には明文改憲の政治的基盤を確保する道だった。
>*事実、消費税率の引上げ決定と「特定秘密保護法」の改定後、急落傾向にあった安倍政権の支持率は、靖国参拝後に反騰して上昇傾向に戻った。
 もちろん、こうした安倍政権の「暴走」が安倍個人の「非正常性」から生じるのではないことは言うまでもない。
**つまり、安倍首相が右傾化させたのではなく、日本社会の右傾化が安倍首相という「怪物」を作ったのである

             3.「65年体制」と「95年体制」
 とはいえ、朴槿恵政権と安倍政権の「不和」を、【安倍政権の短期的な右傾化プロジェクトの結果としてだけで見ることができない理由がある】。
***なぜなら、歴史的に形成された日韓関係にもっと根本的な矛盾が存在しているからである。
【歴史と安保の相関関係という次元で日韓関係を支えてきた二つの体制】を通じ、その矛盾に接近してみよう。
その一つは「65年体制」であり、もう一つは「95年体制」である
   (イ)65年体制」とは、
第一に米国を頂点にした垂直的な系列化に基盤をおく米・日・韓の有事三角同盟体制(日米同盟と韓米同盟)を通じ、ロシア-中国-北朝鮮を封鎖・包囲し、
第二にこの体制を維持してその安定性を高めるために、歴史問題の噴出などを物理的な暴力によって抑圧したり、管制可能な領域に閉じ込めて領土問題を「縫合する」体制を意味する。
**制度的には、「日韓併合」(1910年)の無効と請求権の消滅、そして大韓民国を韓(朝鮮)半島の唯一の合法政府として認めるという内容を含んだ1965年の日韓条約に、その起源を置いている。
>*一言でいえば、安保を「生かして」歴史を「殺す」ことで、両者間の相克を解消する体制を意味する。
朴正熙軍事独裁政権と自民党の蜜月関係を支えた「65年体制」は、冷戦体制が解体した1980年代後半まで続いた。


ロ)1980年代後半の1)冷戦体制の解体と2)韓国の民主化は、「65年体制」に決定的な転機】をもたらした
一つは、【「65年体制」の前提条件だった南・北間の極端な対決構図に融和の雰囲気が造成され、
1)A、韓ソ国交回復(1990年)、韓中国交回復(1992年)が実現し、
**ロシア-中国-北朝鮮を包囲する既存の米・日・韓有事同盟体制の変化が不可避になったという点である。
*特に日本の立場から見れば、「65年体制」下で韓国が主に引き受けていた軍事的リスクが日本へと一部転移し、米国と韓国に依存していた既存の安保政策に変化が必要となった。(W?説明不足だが、重要な戦略的視点)
*1990年代以後、自衛隊の外縁拡大(W、日米安保における自衛隊の日米作戦行動地域の拡大)、日米同盟の強化、そして憲法改定の動きは、こうした背景から表れでた
2)B、>*もう一つは、【韓国での民主化の進展によって反共軍事独裁政権の下で抑圧・封印されてきた歴史問題が噴出】し、これを物理的な暴力で抑制・管制してきた「65年体制」に危機が訪れたという点である。
慰安婦」問題などを始めとする歴史問題が、大体1990年代以後に洪水のように溢れ出したのは、逆に言えば、軍事独裁政権が米・日・韓協調体制を維持するために、いかに歴史問題を抑圧してきたかを傍証する
**安保を生かして歴史を殺し、両者の相克を解消してきた「65年体制」は、これ以上作動しえなくなったのである。いわゆる「65年体制の危機」である。


  こうした状況下で登場したのが、まさに「95年体制」である。

    (ハ)「95年体制」とは
 慰安婦の強制性を認めて、これへの謝罪を含んだ河野談話」(1993年)と植民地支配および侵略に対して謝罪した村山談話」(1995年)などの一連の「謝罪外交」によって作られた日本の歴史認識を意味する。
その後、紆余曲折はあるが、歴史認識をめぐる日韓関係の骨格は、「95年体制」に基礎をおくようになる。
例えば、1998年10月に金大中大統領と小渕恵三首相が共同で発表した「日韓共同宣言――21世紀に向けた新たなパートナーシップ」は「95年体制」の代表的な成果である。
また、2010年8月に発表された菅直人首相の「日韓強制併合百年談話」も、「河野談話」と「村山談話」の延長線上にある。
>*したがって、「95年体制」は1990年代以後の日韓両国政府が公的に共有した歴史認識を指す体制だと見ることができる。
*、「村山談話」などが「隣国の理解と支持」を受けたかについて疑問の余地はあるが、「65年体制」が無視した植民地支配をめぐる行為と慰安婦問題について、国家のトップが公式的に謝罪の意志を盛り込んだという点で評価に値する要素がないわけではない。
**こうした点からみれば、「95年体制」は「65年体制」を歴史認識の面でより一歩発展させたものだと見ることができる。


 (ニ)>*だが重要なのは、「95年体制」が「65年体制」の【補完物であって代替物ではない】という点である。
>*「95年体制」は国家の賠償責任を否定し、これを「謝罪」という形でとり繕うことで「65年体制」がもつ矛盾を体制内に吸収し、「65年体制」を延命させようとする試みだったとも思われる
これ以後、【植民地支配の責任問題】は「65年体制」に対する根本的な問題提起の性格を失い、【国家の責任者の「謝罪」発言の是非やそのレベルをめぐる争いへと矮小化され、漂流】することになる。


  (ホ「65年体制」と「95年体制」をめぐる解釈の問題でもある。
        こうした状況は双方の社会が経験した歴史的な違いに由来する点が大きい。
 日本側は根本的に明治維新以後の秩序を強固な連続性として是認し、これに対する改変の可能性を、少なくとも公的には認めていない。
       ↓↑
これに対し、韓国側は植民地時代や独裁政権によって作られた制度や条約が現在の「生」を規定しているとしても、民主化運動の経験を通じて、これはいつでも改変可能なものと解釈する傾向がある。
言わば、歴史の連続性に対する根本的な懐疑が存在しているのだ。
 
 *もう一つの重要な問題は、「95年体制」をみる視角においても日韓の間で根本的な違いが存在する点である。
韓国では、責任と補償なき「時遅れた謝罪」と要約される「95年体制
」を、「65年体制」の矛盾を解決するための通過点と見ざるをえなかった。
 なぜなら、「65年体制」の根幹となる日韓条約が、その正当性において根本的な疑いをもたざるを得ない状況、つまり反共独裁政権下で結ばれた条約だからである。
国際法上の拘束力いかんや実現の可能性とは関わりなく、<日韓条約の廃棄論や否定論が登場するのはこのため>である。
       ↓↑
これに対して日本は国際法上「65年体制」が歴史問題に対する最終的な解決だったという立場を一歩も譲らないでいる。
さらに、「95年体制」を通じて「65年体制」では含みえなかった「謝罪」の意志まで含めたので歴史問題は法的にも倫理的にも完全に解決されたと考えるのだ。
**したがって、日韓の間での歴史葛藤は帝国主義の侵略と植民地支配をめぐる「解釈」問題でもあるが、同時に「65年体制」と「95年体制」をめぐる解釈の問題でもある。


         4.残された問題(W、今後の予測)
 今後、日韓関係はどうなるのか。
もちろん、安保のために物理的に歴史を殺した「65年体制」の復活は不可である。
そうかといって、現在の日本が安保のために歴史問題を根本的に解決する意志があるようには思えない。
>*やはり、双方の政権が選びうる最も「安易な」方法は、安保のために歴史問題を「95年体制」のレベルで縫合し、「65年体制」の延命を図る道である。
特に、両政権の理念的性格と国際情勢の推移、そして米国の要求を勘案すれば、過去の政権で推進してきた軍事交流のような安保協力を加速化させるために、歴史問題での葛藤を「95年体制」のレベルでとり繕う公算が高いと思われる。
つまり、「河野談話」と「村山談話」の継承を消極的にも安倍政権が宣言し、これを朴槿恵政権が受け入れることで、双方の「関係正常化」を図る可能性が高い

 **要するに、それは歴史を「縫合」して、これを安保から分離することで、安保協力の基盤の「正当性」を確保する道である。
>*仮りに、日本政府が「過去は過ちだった、謝罪する、しかし、憲法改定はする、集団的自衛権も確保する、日韓軍事交流も推進しよう」と述べる。
韓国政府は「日本は謝罪した、経済問題もあるし、安保問題もあるので、未来のために日本との関係をより一層緊密にしよう」という方式である。
**顧みれば、「95年体制」下で進行した日本の右傾化プロジェクトも、こうした「分離方式」によって進行してきたと見ることができる。


  だが、歴史と安保は分離が可能な問題ではない
なぜなら、【日韓関係の基本骨格は安保を生かすために歴史を殺すことで成立】し、この構造がずっと反復されてきたからである。
 
 したがって、日本に歴史問題の根本的な解決を要求する態度は、二つのレベルで重要である。
***歴史を生かすことで安保を殺す道と、安保を殺すことで歴史を生かす道は、結局、【同じ根幹から出てきた二本の枝】である。
***もちろんこの道が、富国強兵を志向する「素早い近代」(日本)に対して「立ち遅れた近代」(韓国)が追いつくことになってはいけない点は言うまでもない。
>*第一に、19世紀以来形成されてきた帝国主義中心の国際秩序に対する根本的な問題提起の性格をもつという点である。
領土や「東海表記」をめぐる日韓の葛藤は、一方で両国ナショナリズムの衝突という性格もあるが、
同時に帝国主義時代に日本の主導で作られた国際秩序に対する「異議申し立て」という性格ももっている


>*第二に、<歴史問題に対する問題提起が>、
<「65年体制」下で形成されて「95年体制」として延命した米・日・韓有事三角同盟体制>を、
実質的な三角同盟体制へと切り換えるための最近の動き(日韓軍事交流)にブレーキをかけうる、
実践的な意味
をもつという点である>。
>もちろんこれは、日韓両国の安保協力を防ぐために歴史を人質にしようという意味ではない。
>むしろ、安保を人質にして歴史を殺してきた「65年体制」と、この延命を図った「95年体制」の限界を超えるためである。 


 2013/02/03 【IWJブログ】CSIS「第3次アーミテージレポート」全文翻訳掲載
該当箇所抜粋
「米日韓は、価値観と経済的利害に加えて、安全保障問題も共有している。収斂されるべき核心は、3国が民主主義国家として無理ない同盟関係にあると仮定されること。しかしながら、北朝鮮核兵器開発を抑止し、また中国の再興に対処する最適な地域環境を整えるために大いに必要とされている3国間の協力は、短期的な不和によって進展を妨げられている。」
「 同盟国がその潜在能力を十分に発揮するためには、日本が、韓国との関係を悪化させ続けている歴史問題に向き合うことが不可欠である。米国はこのような問題に関する感情と内政の複雑な力学について理解しているが、個人賠償を求める訴訟について審理することを認める最近の韓国の大法院(最高裁)の判決、あるいは米国地方公務員に対して慰安婦の記念碑を建立しないよう働きかける日本政府のロビー活動のような政治的な動きは、感情を刺激するばかりで、日韓の指導者や国民が共有し、行動の基準としなければならないより大きな戦略的優先事項に目が向かなくなるだけである。」
北朝鮮の好戦的態度、ならびに中国軍の規模、能力、および発言力が強まっていることは、両国にとって真の戦略的難題となっている。」 
「同盟国は、根深い歴史的不和を蒸し返し、国家主義的な心情を内政目的に利用しようという誘惑に負けてはならない。3国は、別途非公式の場での活動を通じて、歴史問題に取り組むべきである。」
「2012年6月、日本の海上自衛隊と米韓の海軍が合同軍事演習を行ったことは、軋轢を招く歴史問題を棚上げし、より大きな今日の脅威に立ち向かおうとする正しい方向への一歩である。加えて、日韓両国政府が諜報活動から得られる北朝鮮に関する情報を系統的に共有できるようにする軍事情報包括保護協定(GSOMIA)や、軍需品の共有を促進する物品役務相互提供協定(ACSA)といった懸案中の防衛協定を締結するために迅速に行動することは、同盟国3国の安全保障上の利益に資する実務および事務レベルの軍事的取り決めと言うことができる。」   
W。最近の日本の支配政治の周辺的部分の動きはこのレポートに沿うかのように、極端な排外主義勢力に対する非難を強めているようだが、その実態は自分たちの政治目的に沿って、飼い慣らし、利用することである。    韓国の論者の挙げた次の指摘はその辺の実情を理解するために、貴重である。
列記する。
1)日中間の緊張の高まりは米国の対アジア政策に必ずしもマイナスになるわけではない。
むしろそれは、日米同盟体制下のアジアで、日本の軍事的役割を増大させようという米国の利益と適合する面もある。
*中国との葛藤・対立が高まるほど
日本国内の安保への危機感は高まり、日本の米国依存度が高まるたけでなく、米国が日本に対して要求し続けてきた、憲法改定や集団的自衛権をめぐる日本国内の拒否反応が弱まりうるからである
>*しかし、米国にとってこの緊張の高まりは、どこまでも米国の「管制」下で作動しなければならない
 
2)安倍政権はむしろ既存の右傾化の流れをより加速化させていると思われる。
3)【安倍政権にとって最も重要な政策的目標は、アジアにおける日本の軍事的役割を拡大することだ】。
 
4)米国の同意の下に集団的自衛権を確保し、これを通じてアジアで日本の軍事的位相を高めようとする安倍政権にとり、韓国の安保協力は極めて重要である。
 
5)、【安保領域と歴史問題の「分離対応」原則を固守】
 
6)、【賛成世論に切り換えるためには外部からの脅威を強調するのが最も効果的】である。
>*韓国や中国との葛藤を高めて「中国の脅威」論と「韓国の反日」論を強調すればするほど、日本国内の危機意識が高まり、【改憲に反対する世論を抑えこんで中間層を賛成世論へと引き込む効果が期待】できる
歴史問題での葛藤は、こうした危機感を助長するには極めて効果的な武器であった。
だが逆に、韓国との歴史問題での葛藤が高まれば高まるほど、安保協力は難しくなる。
>*つまり、歴史問題での葛藤は、安倍政権にとって「両刃の剣」であった。
>*結局、安倍政権が選択したのは、韓国の同意を短期的に放棄して自らの右傾化の歩みに対する支持率を高め、短期的には解釈改憲長期的には明文改憲の政治的基盤を確保する道だった。
 
7)安倍首相が右傾化させたのではなく、日本社会の右傾化が安倍首相という「怪物」を作ったのである
 
8)もちろん、こうした安倍政権の「暴走」が安倍個人の「非正常性」から生じるのではないことは言うまでもない。
**つまり、安倍首相が右傾化させたのではなく、日本社会の右傾化が安倍首相という「怪物」を作ったのである
 
9)1980年代後半の1)冷戦体制の解体と2)韓国の民主化は、「65年体制」に決定的な転機】をもたらした
一つは
、【「65年体制」の前提条件だった南・北間の極端な対決構図に融和の雰囲気が造成され、
1)
A、韓ソ国交回復(1990年)、韓中国交回復(1992年)が実現し、
**ロシア-中国-北朝鮮を包囲する既存の
米・日・韓有事同盟体制の変化が不可避になったという点である。
*特に日本の立場から見れば、「65年体制」下で韓国が主に引き受けていた軍事的リスクが日本へと一部転移し、米国と韓国に依存していた既存の安保政策に変化が必要となった。(W?説明不足だが、重要な戦略的視点)
*1990年代以後、自衛隊の外縁拡大(W、日米安保における自衛隊の日米作戦行動地域の拡大)、日米同盟の強化、そして憲法改定の動きは、こうした背景から表れでた
2)B、>*もう一つは、【韓国での民主化の進展によって反共軍事独裁政権の下で抑圧・封印されてきた歴史問題が噴出】
 
            10)結論
両政権の理念的性格と国際情勢の推移、そして米国の要求を勘案すれば、過去の政権で推進してきた軍事交流のような安保協力を加速化させるために、歴史問題での葛藤を「95年体制」のレベルでとり繕う公算が高いと思われる。
つまり、「河野談話」と「村山談話」の継承を消極的にも安倍政権が宣言し、これを朴槿恵政権が受け入れることで、双方の「関係正常化」を図る可能性が高い

 **要するに、それは歴史を「縫合」して、これを安保から分離することで、安保協力の基盤の「正当性」を確保する道である。


この将来的動向に対してに対して 
他方この論者の最後の発言も抑え置く必要がある。
歴史を生かすことで安保を殺す道と、安保を殺すことで歴史を生かす道は、結局、【同じ根幹から出てきた二本の枝】である。
***もちろんこの道が、富国強兵を志向する「素早い近代」(日本)に対して「立ち遅れた近代」(韓国)が追いつくことになってはいけない点は言うまでもない。
>*第一に、19世紀以来形成されてきた帝国主義中心の国際秩序に対する根本的な問題提起の性をもつという点である。
領土や「東海表記」をめぐる日韓の葛藤は、方で両国ナショナリズムの衝突という性格もあるが、
同時に帝国主義時代に日本の主導で作られた国際秩序に対する「異議申し立て」という性格
ももっている
W。中国においても、以上のような対日認識のある政治勢力が存在する。
いわゆる、リベラル左派勢力の一部の政治潮流が厳しい対日観を政治的よりどころにする政治的経済的基盤が醸成しており、多くの国民の政治動力になる可能性が高まっている。
そういった意味でも、中韓の支配層は簡単に国内民主主義と連動した新たな民族主義を簡単にコントロールできるものではない。国内民主主義と対外排外主義は歴史的に対立してこなかった事実がある。