反俗日記

多方面のジャンルについて探求する。

現生人類単一起源説と言語の系統について 弘前大学人文学部教授 山本秀樹。

     現生人類単一起源説と言語の系統について    弘前大学人文学部教授 山本秀樹
千葉大学文学部講演会(2013 年 11 月 21 日)
   
    この講演を取り上げるWの<問題意識>
 前回の記事の参考資料の注釈の中で次のような大きな疑問符を挙げておいた。
         <言語学に関連する歴史参考資料>
■シベリアにおける旧石器時代の変遷
このシベリアの舞台にモンゴロイドの人影が現れるのは、「トボリスキー間氷期(約40万~25万年前)」といわれている時代まで遡ります。
W、何を根拠に??そのモンゴロイドは現生人類なのか?現生人類の出アフリカは、遺伝子解析その他の資料によって、遡れても10万年前だとされている。
6万数千年前、出アフリカの第一陣は167名だったという具体的な数字も挙がっている。
この方の言説は現生人類、多地域進化説という、
「主として<化石人骨の形態的特徴に基づく形態人類学的な見地>から立てられてきた説で、
>100 万年以上前にアフリカを出た人類から、たとえば北京原人モンゴロイドへ、ジャワ原人がオーストラロイドへといった進化を遂げたとする、1980 年代後半まで有力な説」~山本秀樹、講演より~
わたしが根拠にしているのは
1980 年代後半の遺伝学的研究(Allan C. Wilson を中心としたミトコンドリア DNA(mtDNA)の分析>)により有力となった説。」~山本秀樹、講演より~
 なお、玉本秀樹講演の主題が以下のテーマを巡ってのものである。モット云えば、人類単一起源→言語単一起源説の考察である。
>「これは、現代のすべての人類が約 20 万年前に生存した、たった1人のアフリカ女性(いわゆるミトコンドリア・イヴ)にさかのぼり、
**それ以前にアフリカを出た人類も含め、そのほかすべての人類は、現代人につながる子孫を残すことなく絶滅したという、今日ではほぼ定説と言ってよい説」である。~山本秀樹、講演より~
 
言語単一起源説の観点からする言語の違いは次のようになる。ノームチョムスキーの普遍文応のさらに究極のような観点である。
「これまで言語学の世界において同系あるいは系統的に無関係と言われてきたものは、*実はすべて程度差にすぎず*、
さらに遠い過去へとさかのぼれば、<世界のすべての言語が単一の祖語にたどり着く同系統の言語>という可能性が出てきます。」

「そこで、はたしてそのようなことが本当に言えるのかということが、本日の講演の主なテーマになります。」
言語単一起源説については前回の記事で取り上げた「日本語千夜一夜」小林昭美(あきよし)は、チョムスキーユニバーサルグラマー(普遍文法~生成文法という呼び方もアル)を要約した冒頭で、疑問符を投げかけている。ただ、このヒトは言語学の専門家ではなく、元NHK放送文化研究所の所長で、教育放送のディレクター出身である。
 同じく前回取り上げた「日本語の謎 言語の謎」では言語単一起源説を次のように言い切っている。
「18.世界の言語
世界で使われる言語は七千ほど。
人類の起源が一つなら、言語の起源も一つ。 W?本当か!
起源が同じであることが、学問的に証明できる諸言語=語族
インド・ヨーロッパ語族ウラル語族、ドラビダ語族、セム語族オーストロネシア語族など」
 
ということで、人類単一起源説(コレは今や定説、反論の余地はない)と、そこから飛躍した言語単一起源説、への関心から、講演の全文を、Wの合いの手?を入れながら、コピーする。
教養としても面白く知っておきたい事柄が、精緻かつ解りやすく整理されているところがこの講演の最大の魅力である。
 有能な法定弁護を聞いているようである。論証力が凄い。
制限語数をオーバーするはずで、二回に分けて、連載する。
 
 なお、コレからの長い時代の趨勢は、抽象的に云えば、普遍ー世界性を求めるベクトルと個別、特殊に拘りたい希求が錯綜していくことになる。
その条件下にあって、二つの傾向のバランスをとることが大事になる。歴史的引きこもり、大事はいつも外からやってくる日本では特に。 
 
 秀樹という名のつく方は、どうも普遍を求める傾向にあるようだ?
そういえば、S秀樹さんという亡くなった理研の方もいたっけ。STAP細胞研究の本質は、普遍への希求である。
日本人には苦手な分野であった。あのような破綻は、アル意味必然だった。
 


          1.概要
 近年の遺伝学的な研究によって「現生人類単一起源説」の方はすでに確定的となりましたが、これまでのところ、この説の言語学に対するインパクトは、あまり見られないようです。
しかし、これが言語学とりわけ言語の系統論にもたらす意味は、けっして小さくありません。
なぜなら、「現生人類単一起源説」を前提にすれば、従来考えられてきたよりもはるかに遠い言語の類縁関係の存在、
>果ては、しばしば荒唐無稽な希説、珍説の類と考えられてきた「人類言語単一起源説」の可能性も浮上してきます。
*つまり、これまで言語学の世界において同系あるいは系統的に無関係と言われてきたものは、*実はすべて程度差にすぎず*、
さらに遠い過去へとさかのぼれば、<世界のすべての言語が単一の祖語にたどり着く同系統の言語>という可能性が出てきます。
 そこで、はたしてそのようなことが本当に言えるのかということが、本日の講演の主なテーマになります。
 


                2.人類の起源
>人類の起源がアフリカにあることはよく知られていますが、人類が類人猿と分岐した時期については、今日では約 600 万年前と言われることが多いようです。
*これは、*遺伝学的に推定される500 万年ないし600 万年前という時期とほぼ一致*したものです。
 近 年、こうした推定値よりもさらに古い約 700 万年前と言われることもありますが、
これは、2001 年にチャド共和国で約 700 万年前の地層から頭骨化石(トゥーマイ)が発見されたためのようです。
>一般に、人類を類人猿と分かつ大きな指標は直立二足歩行と考えられていますが、
*たとえば 1974 年にエチオピアで発見され、約 320 万年前に生存したと考えられる、有名な「ルーシー」というアウストロピテクス・アファレンシス(アファール
猿人)の場合には、骨盤や脚の骨を含む、全身の 40%程度の骨が残っているため、確実に直立二足歩行を裏づけることができました。
しかし、トゥーマイの場合には、頭骨大後頭孔の位置、眼窩の上の隆起、歯のサイズなどから直立二足歩行した人類であった可能性も推測されていますが、
やはり頭骨だけでは直立二足歩行を裏づけることは難しく、今なお完全な決着はついていないようです。
    
W、<重要ポイント> 類人猿との共通祖先→400 万年以上にわたって揺籃の地であるアフリカ→複数の枝分かれ進化→約 180 万年前、出アフリカ。
**いずれにしても、人類は、類人猿との共通祖先と分かれてから 400 万年以上にわたって揺籃の地であるアフリカにとどまって、
**複数の枝分かれを経験しながら緩やかな進化を遂げていき、約 180 万年前になってからアフリカを出て、各地に広がっていきました。


      3.多地域進化説と単一起源説 
W、それ以前にアフリカを出た人類。<現代人につながる子孫を残すことなく絶滅>。←進化と淘汰の過程だ。
>その後の現生人類へのつながりに関して、いわゆる多地域(並行)進化説と現生人類(アフリカ)単一起源説との論争が生じることになりました。
>前者は、主として<化石人骨の形態的特徴に基づく形態人類学的な見地>から立てられてきた説で、
>100 万年以上前にアフリカを出た人類から、たとえば北京原人モンゴロイドへ、ジャワ原人がオーストラロイドへといった進化を遂げたとする、1980 年代後半まで有力な説でした。
*それに対し、後者は、1980 年代後半の遺伝学的研究(Allan C. Wilson を中心とした<ミトコンドリア DNA(mtDNA)の分析>)により有力となった説です。
>これは、現代のすべての人類が約 20 万年前に生存した、たった1人のアフリカ女性(いわゆるミトコンドリア・イヴ)にさかのぼり、
**それ以前にアフリカを出た人類も含め、そのほかすべての人類は、現代人につながる子孫を残すことなく絶滅したという、今日ではほぼ定説と言ってよい説です。
 ただし、この現生人類単一起源説は、必ずしもすぐに受け入れられたわけではなく、<多地域進化説をとっていた形態人類学者>たちばかりでなく
、一部の遺伝学者からさえも痛烈な批判を浴びることがあったようです。
*たとえば、中国では伝統的に自分たちが北京原人の子孫であると考えられていましたし、また、オーストラリアのアボリジニーにとっても、アフリカ起源という説は受け入れがたかったようです。
*しかし、いずれのmtDNA の分析結果、またその他多くの遺伝学的研究によって、現生人類単一起源説が正しいことが実証されていき、今日では、多地域(並行)進化説が唱えられることはほとんどなくなりました。
>>このように<現生人類単一起源説を前提>にすると、我々の祖先の<アフリカ起源、出アフリカ>には、<少なくとも二重の意味>があることになります。
すなわち、そもそも人類が類人猿と分かれてアフリカで誕生したという意味と、現生人類、ホモ・サピエンスがアフリカで誕生したという意味です。
**また、出アフリカに関しても、ホモ・エレクトスがアフリカを出たという意味と、ホモ・サピエンスがアフリカを出たという意味があることになります。
**ホモ・エレクトスがアフリカを出た時期については、かつては 100 万年前あるいは 120 万年前と言われていましたが、
特 に 2000 年にグルジアで 170 万年前の地層から人骨化石が発掘されて以降は、約 180 万年前と言われることが多いようです。
**一 方、ホモ・サピエンスがアフリカを出た時期については、10 万年前頃までさかのぼると言われることもありますが、
**最近では、現在の我々に直接つながるホモ・サピエンスがアフカを出たホモ・サピエンスは、せいぜいアラビア半島西アジアまでしか到達せずに絶滅してしまったと考えられています。



4.ミトコンドリア・<イヴ>と< Y 染色体アダム> 
W。受精卵の系統を辿る従来の方法にくわえて、Y染色体(男のみ)の系統も辿れるようになって、両者の一致した年代は<概ね6万年前、さらに最近では約8万年前と推定>決定!?
>mtDNA は、もちろん男女いずれにも存在するものですが、<卵子を通じて女性のものだけが継承>(W、受精卵から遡れる)されるため、<母系の系統をたどる>ものです。
>一方、特に <2000 年以降、Y 染色体によっても現代人の系統が遺伝学的に研究>されるようになりました。
周知のように性別の決定に関わる性染色体には X と Y の2種類があり、このうち< Y 染色体は、男性にしか存在せず、父親から息子にしか継承>されません。
>そこで、mtDNA によって現生人類の母系(女系)の系統をたどることができたのと同様に、
**Y 染色体によって現生人類の父系(男系)の系統をたどることも可能と考えられるようになりました。W?本当か。
 Peter A Underhill 等は、この Y 染色体を利用して男系の系統を研究し、現在のすべての男性が共通の男性にたどり着くことを実証し、
<この男性はしばしば「Y 染色体アダム」>と呼ばれるようになりました。
**この Y 染色体アダムの生存時期については、やはり誤差のない正確な確定は困難なようですが、<概ね6万年前、さらに最近では約8万年前と推定>されているようです。
**<Y 染色体は、mtDNA に比べて種類が少ない>ため、<言語の遠い類縁関係を探るには有利>と言えるかもしれません。
>>しかしながら、<せいぜい8万年前までしかさかのぼることができない>ため、
(後述する言語の獲得時期にもよりますが)と りあえず言語単一起源説には直接関係しないと考えられます。
 つまり、たとえ Y 染色体アダムが言語を持っていたとしても、それ以前から<ミトコンドリア・イヴの系譜をひく現生人類がすでに多数存在>しているために、
>Y 染色体アダムが話していた言語の系統を継承する言語のほかに、それ以前の現生人類が話していた言語の系統を継承した言語も現存するという可能性が否定できないからです。
**それに対して、<約 20 万年前に比較的少数の集団で暮らしていたと考えられているミトコンドリア・イヴ>の場合には、
それ以前の現生人類の系譜をひく人類は現存しないので、もしすでに言語を話していたとすれば、
***彼女の言語は、後のあらゆる人類言語のまさに<世界祖語と言える可能性がきわめて高い>と考えられます。
>>そ こで、この講演では、Y 染色体アダムではなく、ミトコンドリア・イヴについて考えることにします。


          5.現生人類単一起源説が言語学に対して持ち得る意味
 概要でも触れたように、現生人類単一起源説が言語学にもたらす意味は、けっして小さくありません。
>>たしかに、<以前の多地域(並行)進化説で考えれば>、
人類がアフリカを出てから世界各地に拡散し、現代人へと進化していった時間は<<約 180 万年間>>ということになり、
**彼らがアフリカを出た時期においてすでに言語を持っていた可能性は、大脳の容量のほか、後述する音声器官の形態などから、非常に低いと考えられます。
 
 したがって、多地域進化説を前提にした場合には、人類が言語を獲得した時にはすでに世界各地に拡散していたため、
**<<多地域で言語が並行的に発生した可能性を考える方が、むしろ自然>>であったと言えるでしょう。
**しかしながら、<現生人類単一起源説>をとって、<現存するすべての人類が、約 20 万年前に生存>した、たった1人のアフリカ女性(ミトコンドリア・イヴ)
から派生しているということを前提にすると、その女性がすでに言語を持っていさえすれば、
その後のすべての人類言語が、その言語から派生したという、いわば「人類言語単一起源説」の可能性が高くなってきます。
>>>つまり、これまで言語学者たちが種々の言語に関して系統関係の有無を主張してきたものは、すべて程度差にすぎず、
>>><ミトコンドリア・イヴの時代までさかのぼれば>、<世界のすべての言語が同系統の言語>という可能性が出てきます。
 


6.現生人類単一起源説に対する言語学者たちの反応
 現生人類単一起源説が定説となった後、この説に対する多くの言語学者の反応は、一言で言えば、ほとんど無関心と言ってもよいかもしれません。
これには、いろいろな要因が関係していると思われます。
**たとえば、現生人類単一起源説というのは、今でも、いろいろな考え方がある中の一つにすぎないと誤解している人もいるようです。
**また、<我々すべての祖先が約 20 万年前という比較的浅い時間までしかさかのぼらないという事実が判明>したところで、
**そのことから言語単一起源につながる可能性が出てきたという認識を持つ人は少ないようです。
>>相変わらず、言語に関しては多地域並行発生的なイメージが根強いのかもしれません。
>>>しかし、多くの言語学者が現生人類単一起源説に関心を示さない最大の理由は、やはり伝統的な比較言語学による系統証明方法の限界にあると思われます。
 W。ココから先は
7.比較言語学における系統証明の手法
8.言語の遠い類縁関係の研究
ということで、その精緻、かつ簡潔な解説である。
本論の主旨と直接関係がないので、すっ飛ばしてもいいが、現状の7、8研究の概略が大づかみできる、優れもので、コピーする価値がある。
 


        7.比較言語学における系統証明の手法
本日いらっしゃった方々は、必ずしも言語学専攻の方ばかりではないということなので、ここでまず、伝統的な比較言語学による言語の系統証明の手法について簡単に説明しておきます。
言語学をよく御存知の方には退屈かもしれませんが、少しは言語学の教科書に載っているような話もしておきましょう。
 一般に、伝統的な比較言語学では、借用が比較的起こりにくいとされる<基礎語彙の間に見られる規則的音対応>や、
形態素のような<文法形式における体系的対応>を基本に据えて、系統証明が行われてきました。
 
たとえば、印欧語族の一部の言語で基礎語彙を比較すると、
     「父」にあたる単語は、
サンスクリット 古代ギリシア語   ラテン語   古高地ドイツ語 古英語(W。ゲルマン語の影響が強い)
:pitar、   :patēr、    :pater、 :fater、    :fæder 、
ゲルマン語(古高地ドイツ語と古英語)以外の p の音がゲルマン語では f で対応している様子が見て取れます。
>もし、この対応がこの単語だけに見られるのであれば、単なる偶然の可能性も否定できないでしょう。
しかし、たとえば「 足」に あたる単語を比較しても、それぞれ
サンスクリット 古代ギリシア ラテン  古高地ドイツ 古英語 
pad、      pod、      ped、    fuoz、      fōt 、
やはり同様の規則的な音対応が観察されます。
 また、形態素の例をあげると、たとえば英語とドイツ語の間で、
<英語の屈折、比較、最大級> ドイツ語の語形変化  英語の屈折時制変化   ドイツ語の時制変化
rich-richer-richest と reichreicher-reichst、 drink-drank-drunk と trinken-trank-getrunken といった体系的な対応が観察されます。
このように、伝統的な比較言語学では、一部、形態素も含みますが、広い意味で語彙を基本にして系統証明を試みるのが通例です。
***しかし、こうした<語彙の比較によって厳格な系統証明が可能な範囲>というのは、<過去8千年ないし、せいぜい 1 万年程度の範囲>でしかありません。W。ナルホド、それのそうだな!
実際のところ、これまで言語学で認められてきた語族は、すべてこの範囲内のものです。
たとえば、印欧祖語やウラル祖語は5,6千年前と考えられ、広く認められた語族の中でおそらく最も古いと考えられるアフロ・アジア語族(W、注))でさえ、その祖語は約8千年前と推定されています。
これは、単なる偶然の一致を越えて基礎語彙が共有される期間が、おおよそこの程度の範囲でしかないためです。
イメージ 1(W、注。アフロ・アジア語族は、アラビア半島を中心とする西アジアで話されるセム語派と、それに近縁な、北アフリカを中心に分布するハム諸語(かつてのハム語派)の総称。
図。
W、これは驚き!そんな広い範囲の言語も印欧語族に含まれるのか!
理解不能の言語系を除き雄勁な言語が次のようになっている。
エジプト語派<古エジプト語、中エジプト語、新エジプト語>、セム語派<ヘブライ語アラビア語アラビア語エジプト方言(Wエジプト語派と混同しないように)、マルタ語、アラム語W。イエスキリストの言葉)>
W、ハム語はセム語の系統に分類されるようになった。

 
 
 
 
基礎語彙の共有率については、1950 年前後に提唱された Morris Swadesh による言語年代学的な研究がよく知られています。
これは炭素の放射性同位体 14 の半減期による年代測定にヒントを得たもので、
**1,000 年ごとに基礎語彙のおよそ 20%程度が失われると考えられています。
**したがって、同系の2言語間でそれぞれ 1,000 年ごとに 80%の基礎語彙が残存したなら、
それら2言語間で共通する基礎語彙共有率を単純計算した場合、
1,000 年後で 100×0.8×0.8=100×0.8 2 =64%、t 千年後で 100×0.8 t ×0.8 t =100×0.8 2t %となります。
 
 そこで、この単純計算で算出すれば、<ある同系の2言語間で 1,000 年ごとに80%の基礎語彙が残存したと仮定>した場合、
W。この功の結論を先回りすると、「今日、この種の計算を字義通りにとらえる言語学者はほとんどいないでしょう」参考意見程度だ。
**その2言語間での基礎語彙共有率は、
5,000年後で 10.7%、6,000 年後で 8.5%、7,000 年後で 5.5%、8,000 年後で 3.5%、9,000 年後で2.2%、10,000 年後で 1.4%という値になります。
 また、基礎語彙の残存率を多めに見積もって 1,000 年ごとに 85%が残存したと仮定しても、
**基礎語彙共有率は、5 ,000 年後で 19.7%、6,000 年後で 14.2%、7,000 年後で 10.3%、8,000 年後で 7.4%、9,000 年後で 5.4%、10,000年後で 3.9%になります。
**しかし、一般に系統にかかわらず、どのような言語間でも4%ないし5%、さらに音韻体系の類似した言語間では7%程度、<偶然による類似は存在>すると言われています。
たとえば、しばしば馬鹿げた系統証明として使われる例をあげれば、英語と日本語の間でも、so と「そう」、
name(古英語 nama、ドイツ語 Name、ゲルマン祖語*naman で、ほぼ綴り字どおりの発音)と「なまえ」、woman と「おんな」(古くは womina)等、
>>偶然による類似は、ある程度、容易に見出すことができます。
 さらにやや凝った例をあげれば、kill と「きる」といった例もあります。
W。日本の縄文時代を紀元前2000年から、紀元前500年ごろの弥生時代の始まりまでと仮定すると(その前は新旧石器時代で土器はない)、Morris Swadesh による言語年代学的な研究の方法によれば、単純計算して
少なく見積もっても、40%~50%の基礎語彙が消滅した。まして、縄文人の狩猟採取生活の列島に稲作文化の弥生人が大挙渡来してきて、列島中心部に拡散し、言語にも多大な影響を及ぼした。
文字時代以前の日本語の古語は、弥生時代以降の大陸(朝鮮中国)との交流の中で形成された言葉である。~「日本語千夜一夜」参照~
実際、たとえば古英語の slēan は「貨幣や剣などを打って鍛えて作る」という意味でしたが、
現代英語における変化形 slay は「殺す」という意味ですので、基本的に<「打つ」から「殺す」に意味変化>したと考えられます。
 同様に「斬る」から「殺す」に意味変化することは、言語学的には十分あり得ることでしょう。
もちろん、実際には、これらの英語と日本語の例が、いずれも単なる偶然による類似にすぎないという証明は言語学的に容易ですが、
一般に基礎語彙の共有率が5%を割ると、偶然や借用を越えた、真の同系統に起因する基礎語彙間の厳格な音韻対応を見出すことは、きわめて困難になると予想されます。
 当然のことながら、物理的な放射線炭素の半減期による年代測定と基礎語彙共有率による年代測定では性質が大きく異なり、
基礎語彙の共有には、その後の言語接触の程度や社会的要因等、種々の要因が影響します。
>>そのため、今日、この種の計算を字義通りにとらえる言語学者はほとんどいないでしょう。
***しかしながら、正確な年代測定はともあれ、言語学者が系統証明において基盤にする基礎語彙は、<<およそ 1 万年を越えると>>、
少なくとも<<厳格な音韻対応を実証するには、ほとんど無力な状態>>になるだろうということは、想像に難くないでしょう。
***以上のような系統証明の比較言語学的手法の限界から、
言語学では、過去数千年の範囲内における言語の系統のみを対象とし、それ以前の系統については問題にしないという姿勢が、現在でも<一般的>と言ってよいでしょう。
W。もっともなことである。インドヨーロッパ語族が今のウクラナイナあたりから移動を開始したのは、紀元前2000年前。しかし、<一般的>でない研究から、古代エジプトの言語も印欧語族の系統にしているのか。
 
                                                                   ~以下次回~