反俗日記

多方面のジャンルについて探求する。

「西洋の敗北」をフランスで出版した(未邦訳)エマニュエルトッドの最新発言。トマ、ピケティのEU結成以降の歴史を振り返って~域内資本の移動自由と税率格差はEU帝国中央から周辺への製造業の移転促進、儲かったカネは税の抜け穴(タックスヘイブンへ⇒投機市場に緊急動員)。階層格差拡大の政治経済は戦争事態の恒常化。

なぜウクライナ戦争は起こったのか?


──トッドさんは米国についてどうお考えですか。

トッド 欧州の指導者階級は、米国と足並みをそろえようと躍起になっています。しかし、いまの米国社会を見ると、歴史上類例のない退行の真っ只中にあります。

米国が欧州にやって来たのは1944年のことですが、あの頃の米国は、世界の工業生産の45%を占める国でした。生活水準を見ても、米国は欧州の1〜2世代先を行っていました。そんな米国がNATOを作り、私たちをスターリンから守ったのです。

ところが、いまの米国はどうでしょうか。死亡率が上昇し、平均寿命が短くなっています。

フランスと米国を比較すると、米国の平均寿命は6年も短いのです。米国は極端な不平等社会になっています。自由の国だと言っているわりには収監率が世界一であり、これは黒人に対する人種差別と関わっています。米国の政治は金銭で動いています。

こんな状況の米国を、いったい誰が標準的なリベラル・デモクラシーの国家だと言えるでしょうか。リベラルな寡頭制国家と言ったほうが的確だと思えるくらいです。

歴史家として見たとき、これまで欧州主義だった欧州のエリートがことごとく自分たちの務めを放棄して、まるで魚群を形成するかのように米国を支持したのには唖然としました。米国は自国の支配力を維持するために、戦争に次ぐ戦争をするような暴力的な国です。米国による経済封鎖で約40万人のイラク人が死にました。これは米国がイラクに侵攻する前の話です。

私には、欧州の価値観がどこにあるのか、見当たらなくなったように思えます。そもそも欧州統合は、平和をもたらすものだと謳われていたのです。ところが、その欧州がロシアを挑発し、ウクライナでの戦争に関わっています。

昨今はロシアの脅威が語られがちです。たしかにウクライナにとってロシアは脅威です。しかし、軍事の専門家から見れば、西欧にとってロシアはどう考えても脅威ではありません。ロシアも認めているように、NATOとロシアの通常戦力を比較したら、NATOのほうが圧倒的なのです。

私たちは米国に守ってもらっていると言っていますが、実際は脅威にさらされているわけでもありません。米国がウクライナに兵器を供給し、ウクライナを事実上、NATOに加盟させたから、欧州に戦争が戻ってくることになったのです。

経済制裁を科せば、ロシアは破壊されるという触れ込みでしたが、あの経済制裁が実際にもたらしたのは、欧州内の物価の高騰、とりわけ食料品価格の高騰であり、それが欧州の人々の生活水準を低下させたのです。しかもその間、米国は自国を利する保護貿易の政策を実施し、欧州はその割を食っています。そんな状況なのに、欧州主義の信奉者たちはNATOに感謝しているのだから呆れてしまいます。

奇妙に思えるのは、欧州内でこうしたことに関して、まったく討論がなされていないことです。私は最近の発言で、親ロシア派だと批判されていますが、私はフランスに討論が許される民主主義を維持したくて闘っているのです。なぜならリベラル・デモクラシーとは、多元主義のことであり、複数の見方の間で討議することにほかならないからです。

これからの欧州が進むべき道


──ウクライナでの戦争以外では、EUは充分に民主的だといえますか。

トッド あるシステムが複数の国家と複数の言語で成り立っているとき、そこでは民主制は機能しません。歴史をひもとくと、民主制とは討論のことなのだとわかります。討論は、同じ言語を話す人の間でしか成り立たないのです。それゆえ、欧州という制度は民主的にはなりえません。私は別にそのことに憤っているわけではありません。ただ、実態を指摘しているだけです。

  • 2

    「欧州はもはやプロジェクトとして破綻している。だから戦争をし出したのではないか」

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トマ・ピケティ「新しい“眼”で世界を見よう」
EUのルールが租税ダンピングを助長し、タックス・ヘイヴンを発展させたT 

                    ext by Thomas Piketty From Le Monde

2023年末のジャック・ドロールの死去とともに欧州の歴史がまた1ページめくられた観がある。ドロールは1985〜1995年まで欧州委員会の委員長を務めた。欧州議会選挙が数ヵ月後に迫るいま、EUにとって決定的だったあのドロール委員会時代を批判的に振り返り、将来のための教訓を引き出しておくべきである。

1986年には単一欧州議定書(モノとサービスの移動の自由)が調印された。1988年の欧州経済共同体指令では、資本移動の自由が実現した。1992年にはマーストリヒト条約の調印もあった。いまのEUがドロール委員会時代に形作られたといっても過言ではない。

なかんずくマーストリヒト条約は、1957年のローマ条約で設立された「欧州経済共同体(EEC)」を「欧州連合EU)」に変えたほか、単一通貨「ユーロ」も創設するものだった。フランスでは1992年9月に国民投票が実施され、この条約がかろうじて批准された(賛成51%)。1992年に定められたとおり、単一通貨ユーロは1999年に企業に対して導入され、2002年に個人にも導入された

フランスは、2005年の欧州憲法条約を国民投票で否決した(反対55%)。だが、2007年、欧州憲法条約に微修正を施したリスボン条約の批准を(国民投票ではなく)議会で承認した。

このリスボン条約は、1986〜1992年のあいだに下された重要な決定を補強し、自由競争と自由流通の原理を憲法に組み込もうとするものにすぎず、とくに大きな変化をもたらすものではなかった。2012年の財政協約も、1992年にマーストリヒト条約で定めた債務と財政赤字の基準を厳格化するものであり、ここにも大きなイノベーションはなかった。


     「ユーロ」というイノベーションの効果

1985〜1995年までの欧州に関する決定的な交渉は、どのように進められたのか。それを理解するうえで参考になる本がある。2007年に刊行されたラウィ・アブデラル著『資本ルール──グローバル金融の建設』(未邦訳)だ。

ジャック・ドロールやパスカル・ラミーなど、当時の欧州にける主要な政治家や高級官僚への含蓄のあるインタビューが数十本掲載されている。著者のアブデラルは、それをもとにそれぞれの政治家や高級官僚が持つ未来のビジョンや交渉材料を丁寧に分析している。

 簡単にいってしまえば、フランスの社会党は賭けをしたといえる。

欧州中央銀行」という多数決で決定を下せる強力な連邦機関を作り、単一通貨のユーロを導入すれば、やがて経済の力を上手に統御できる公権力を欧州規模で実現できると踏んだのだ。

それは1981年にフランスで発足した社共連合政権よりも、上手に経済の力を統御できると見込まれていた。

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ドイツの中道右派政党「キリスト教民主同盟が、何よりも求めていた資本移動の自由の絶対化を受け入れたのは、そのためだった。

キリスト教民主同盟が求めたのは、

>資本移動に公的規制を一切設けず、

>とりわけ共通の税を設定しないことだった

ここは重要な争点でありえたのに、

フランスのミッテラン大統領とジャック・ドロールは、交渉の際にこれを大きく取り上げなかった。それは歩み寄りの基盤を確保するためだった。

 

 それから30年経ったいま、欧州中央銀行とユーロという思い切ったイノベーションがその後どうなったかを振り返ると、当然ながら、そこには毀誉褒貶(きよほうへん)が相半ばしている。

もちろん欧州中央銀行が2008年の金融危機や新型コロナ危機の対応で中心的な役割を果たしたからこそ、欧州経済全体の崩壊を避けられたという見方もできなくはない。

欧州中央銀行ギリシャ債務危機の初期に何度かミスを繰り返したり、2012~13年に余計な緊縮政策を実施したりすることがあったものの、多数決で決定を下せる仕組みがあったので、特定の国(たとえばドイツ)が拒否権を発動するのを回避できた

>それで多額のお金を迅速かつ効率的に動かして、ヨーロッパの経済を安定させ、ユーロ圏内の国債利回りの差を縮められた。

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  「欧州総会」の設置を目指すべき

ユーロという単一通貨がなかったら、どうなっていたのか。それは誰にもわからない。ただ、ユーロに加わらなかった北欧諸国は、ことさら悪い状況になっているわけではない(ことさらいい状況になっているわけでもない)。とはいえ、フランスの信頼できる政治家でフランを戻すべきだと論じる者はいない。

 別の見方をするなら、

中央銀行信用創造だけで、すべての問題が解決できるわけではないことを、みんな承知しているということだ。

とくにセントラル・バンカーは、銀行と銀行家の救済には積極的なのに、職業訓練や医療、そして気候変動対策への投資にはそうでもないということも示された

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その意味では、中央銀行のせいで資産家に資産が集中する度合いがさらに高まってしまったともいえる。

財政出動中央銀行による資産の買い入れによって

>超富裕層が保有する株式や不動産の価値が上昇したからだ。

>一方、貧困層の貯蓄は、現在進行中のインフレで目減りしてしまった。

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 1992年に定められた欧州の資本移動の自由に関するルールは、

>あまりにも極端であり、安定性を損ねかねないものだった。

あのIMFでさえ、1997年のアジア通貨危機と2008年の金融危機のあとに反省し、短期の資本移動には、ある種の制限を導入している。

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 また欧州のルールは、租税ダンピングを助長するところもあった。法人税の税率が延々と下げられただけでない。

タックス・ヘイヴンがいまだかつてなく発展することになった。ビリオネアやマルチミリオネアへの課税が不充分になってしまう仕組みができてしまったのだ。

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W。⇒

キリスト教民主同盟が求めたのは、

>資本移動に公的規制を一切設けず、

@とりわけ共通の税を設定しないこと

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政治に関しては、フランスで1992年

W。注釈。

1992年にはマーストリヒト条約の調印。

1992年9月に国民投票が実施され、この条約がかろうじて批准された(賛成51%)

2005年に実施した国民投票の結果、

W注釈

2005年の欧州憲法条約を国民投票で否決した(反対55%)

>だが、2007年、欧州憲法条約に微修正を施したリスボン条約の批准を(国民投票ではなく)議会で承認

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庶民階級の一部が投票所に行かなくなり、庶民階級の左派政党離れが進んだ。

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 2005年の欧州憲法をめぐる国民投票で「反対」票を投じた有権者は、

       ↓       ↓

 2022年に(極右政党の)「国民連合」に投票した有権者とかなり重なり合う。

>とりわけ産業空洞化が進行した中規模都市では、その傾向が著しい

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クリントン政権(在任: 1993年1月20日 - 2001年1月20日

  Rust Belt、銹錆地帯

  

1992年にはマーストリヒト条約の調印。

1992年9月国民投票が実施(フランス)

G.W.ブッシュ(子)政権⇒ 2001年911日事態。2期。

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2005年欧州憲法条約を国民投票で否決した(反対55%)

>だが、2007年、欧州憲法条約に微修正を施したリスボン条約の批准を(国民投票ではなく)議会で承認

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オバマ政権
(在任:2009年1月20日 - 2017年1月20日

  ↓

トランプ政権へ

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     この複雑なレガシーには、どう対処するのがいいか。

まずはEU加盟国に呼びかけてEUの中核に財政、租税、環境対策に関して多数決で意思決定が下せる機関を設置することを目指すべきだ。

私はこの機関を「欧州総会」と呼んでいるが、この機関がすぐに日の目を見る可能性はあまりないかもしれない。だが、これを中心的な目標に据え続けるべきだ。

その目標のために歩み寄れる国が出てくるのを待ちながら、フランス一国だけででも、EU内外の租税ダンピング、ソーシャル・ダンピング、環境ダンピングなどに大規模な対策を実施することがおそらく必要だ。

W.ドイツにの経済的優位を保証した資本の移動自由、と租税率の各国決定権。⇒EU帝国中央から周辺に安い労働力商品を求めて製造業が工場移転(当然受け入れ側の周辺国の法人税は安い⇔EU中央の法人税率に下方圧力。儲かった過剰流動資金はタックスヘイブン(税の抜け穴国家、地域~スイス、ルクセンブルグ。ロンドンシティーへ。さらに地球規模のタックスヘイブン=株式市場、先物取引、金取引、ピットコインそのた金融投機市場の隆盛⇒それらの市場で高騰した資本による現物経済における格差創造。以上の世界的流れ。排外主義政治の台頭から戦争経済へ!)

たしかにそれをすれば、複雑な危機をいくつも引き起こしてしまいかねない。だが、国際協調主義という針路からぶれなければ、これらの危機は乗り越えていけるはずだ。現在の閉塞状況を抜け出す道は、おそらくこれしかない

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               5min2024.2.22
西側諸国は「何も見えていない」
エマニュエル・トッド「いま私たちは西洋の敗北を目の当たりにしている」

                   Text by Alexandre Devcchio フィガロ

フランスで新著『西洋の敗北』(未邦訳)が刊行~W。邦訳されないかも知らない~~された歴史家・人類学者のエマニュエル・トッドに仏紙「フィガロ」がインタビューした。

トッドは1976年の著書『最後の転落』でソ連崩壊を的確に予見したことで知られる。新著でトッドは「西洋の敗北」を予言し、その証明となる3つの要因を提示する──。

     西洋の凋落を証明する「3つの要因」

──2023年に弊紙から受けたインタビュー「第三次世界大戦はもう始まっている」が、今回の新著を書くきっかけになったと伺っています。すでに西洋は敗北を喫したとのことですが、まだ戦争は終わっていませんよね

戦争は終わっていません。ただ、ウクライナの勝利もありえるといった類の幻想を抱く西側諸国はなくなりました。この本の執筆中は、それがまだそこまではっきり認識されていなかったのです。

昨年の夏の反転攻勢が失敗に終わり、米国をはじめとしたNATO諸国がウクライナに充分な量の兵器を供給できていなかった事態が露呈しました。いまでは米国防総省の見方も、私の見方と同じはずです。

西洋の敗北という現実に私の目が開かれたのは、次の三つの要因によるものでした。

第一の要因は

米国の産業力が劣弱だということです。

米国のGDPにはでっちあげの部分があることが露わになりました。

私は今回の本で、膨らまされた米国のGDPを本来のサイズに戻し、米国の産業力の衰退の真因を示しました。

1965年以降の米国ではエンジニアの数を充分に育成できていないのです。

さらに言うと、

>米国では全般的に教育水準の低下が起きています。

W。東北の高校生野球選手がスタンフォード大学に入学したと騒いでるが、スポーツ推薦奨(野球枠かな?)学金審査に合格しただけであり、昔から名門大学は野球奨学金を出し野球部のある数少ない大学。大昔、阪神の外国人投手でスタンフォード大出身者がいた。ブッシュJRもイェール大時代野球選手だった。横浜のバウアーさんもUCLA、しかも工学部。アメリカの大学で学力が高いのは極一部の研究者だけ、しかも外国人が多い。
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西洋を没落させた第二の要因として、

米国でのプロテスタント文化の消失が挙げられます。

>今回の本は、言ってみれば、ドイツの社会学マックス・ヴェーバーが著した『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の続編です

ヴェーバーは、1914年の第一次世界大戦勃発の前夜、西洋勃興の中核は、プロテスタント世界の発展だと的確に見抜きました(Wワイマール憲法の執筆者の一人であったヒットラー台頭の法的根拠となる大統領権限強化を社民党資本経営参加条項の対抗措置<いわゆる社会主義条項>として加えた~~~)プロテスタント世界とは、この場合、英国、米国、プロイセンによって統一されたドイツ、北欧諸国を指します。

>フランスがラッキーだったのは、これらの先頭集団を走る国々に地理的に近かったから、くっ付いていけたところです。⇒W。トッドらしい皮肉。

 

 以下、唯物論者としてはトッドの教育の視点からの社会経済分析には違和感を覚えるが参考にはなる。

 

プロテスタントの国々では、教育水準が人類史上類例のないほど高くなり、識字率もきわめて高くなりましたが、それは全信徒が聖書を一人で読めなければならないとされたからでした。

また、地獄落ちの不安があるゆえに、自分は神に選ばれているのだと実感したくなり(W,天国に行ける人は予め決まっているらしい!)、それが勤勉に労働する意欲につながり、個人も集団も強い道徳規範を持つようになりました。

もちろんプロテスタント文化には負の側面もあります。

米国の黒人差別やドイツのユダヤ人差別など、最悪の人種差別はプロテスタント文化に端を発しています

プロテスタントの思想には、人を地獄落ちの者と神に選ばれた者に分けるところがあり、そのせいでカトリック式の人類みな平等の考え方が放棄されたのです。

いずれにせよ、教育水準の向上と勤勉な労働意欲は、プロテスタントの国々の経済と産業力を大きく発展させました。いまはその正反対です。

*****エマニュエルトッド、独特の皮肉を込めたフレーズ。

近時はプロテスタント文化が崩れ、それによって知的水準が下がり、勤勉な労働意欲が消え、大衆が欲深さを露わにしています(この事象の正式名称はネオリベラリズムと言います)。その結果、西洋は発展せずに、没落に向かっているのです。

もっとも私は過ぎ去った時代を懐かしみ、いまの社会が道徳的観点から嘆かわしいというお説教がしたくて、この種の宗教的要素の分析をしているのではありません。私は歴史の事実を指摘しているだけです。
         W.以下のフレーズもトッドの真骨頂!
>それにプロテスタント文化が消えたので、

>それにつきものだった人種差別も消えたわけです。

>米国にオバマという初の黒人大統領が選出されたのも、そういった背景があります。

その点においては、プロテスタント文化の消失は、このうえなく喜ばしいものなのです。